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緊張

 受付さんが戻ってくるまでの間、ちょっと時間があるだろうからミリオにギルドマスターのことでも聞いてみようかな。


 「ミリオはギルドマスターに会ったことあんの?」

 「何度かここで見たことはあるけど、面識はないね。そもそも下級冒険者がギルドマスターと知り合う機会なんてまずないからね。もしかしたらアンなら面識があるかもしれないけど」

 「アンちゃん? あーそういやあの子、戦姫って呼ばれてるぐらいの槍の使い手なんだもんな。そりゃ上の人たちが早いうちから目を掛けるのも分からんでもないわな」

 「うん。間違いなく期待はされてると思うよ。実際、もう一年もしないうちに中級に上がりそうな勢いだからね」


 下級から中級に上がるのにどれほどの時間が掛かるものなのかは分からんけど、その言い方からして相当早いんだろうな。

 ミリオと比べてもレベルが倍以上違うのにそれで先に中級に上がるぐらいだからな。


 「すげぇなアンちゃん。こりゃ俺もうかうかしてられないな。まぁ、俺はスタートラインにすら立ってないんだけど」

 「それはギルドマスターとの話し合い次第だからね」

 「だな。それはそうと、ギルドマスターって男? 怖い?」

 「うん。初老の男性だよ。顔は、少し怖いかもね」

 「…そっかー」


 怖いのかー。

 見た目で人を判断するのはよくないっていうのは分かるんだけど、正直第一印象って見た目でしか判断できないしな。

 見た目が怖い人苦手なんだよな。何でかって? 怖いから。

 怖い人を前にするといつも以上に緊張しちゃって何喋っていいか分からなくなるんだよな。慣れれば平気なんだけど。

 しかも、キレやすいんだろ? 嫌だなー。

 と、ギルドマスターの顔面事情に俺が不安を感じ始めた頃に受付さんが戻ってきた。


 「お待たせしました。ギルドマスターに連絡を取ったところ、丁度今手が空いたとのことでしたので、ギルドマスターのもとへご案内いたします。私の後ろへ続いてこちらへ」

 「あ、はい」


 鑑定石を腕に抱え、受付さんがさっきから出入りを繰り返している扉へと向かう。

 ギルドマスターの部屋に行くのか。

 というかギルドマスターここに居たのかよ。連絡を取るって言ってたから外に出てるんだと思ってた。

 というか、部屋に連れ込むってことは、これはあれか? 圧迫面接ってやつか?

 スキルのこととか根掘り葉掘り聞かれるのかね? 正直俺も分かってることなんて大してないから何も言えないんだけどな。

 まぁ、こっちの話を聞いてもらうには個室の方がありがたいんだけどな。レベルのこととかスキルのこととか、俺が冒険者になれるかどうかとか。


 「これって僕もついて行っていいのかな? 待ってた方がいいなら待ってるけど」

 「いやいや、ついてきてよ。さすがに一人で行くのはつらいんだけど。受付さん、彼も一緒に連れて行っても大丈夫?」

 「はい、大丈夫ですよ。事情は知っているようなのでお連れ様の入室許可も先に戴いておきましたので」


 …この人、仕事できる人だ。

 見た感じ俺と同じぐらいの歳なのに、すげぇしっかりしてる。

 俺も見習わなくちゃな。

 扉を抜けた先には廊下があり、左右に二部屋ずつと、正面に少し大きな扉があった。


 「正面の部屋がギルドマスターの執務室となっておりますので、左右の扉には入らないようにお願いしますね」

 「うぃっす」


 別に入る気なんてさらさらなかったんだけど、そう言われると逆に意識しちゃうよな。

 いや、入ったりはしないけどな。

 ギルドマスターの部屋の前まで来たところで、受付さんが扉をノックする。


 「先程報告いたしました二名を連れて参りました」

 「おう。入れ」

 「失礼致します」


 中からギルドマスターと思われる男の低く掠れた声が聞こえてきた。それを合図に受付さんがドアノブを捻り扉を押し開く。

 入れって言い方からしてちょっと偉そうで怖いんだけど。

 まぁ、ギルドじゃ一番偉い人だから偉そうにしてても間違いじゃないんだけどな。威厳のないトップってなんか頼りないし。

 そして、先に受付さんが中に入り、俺たちにも入ってくるよう促してきたので、扉をくぐり抜けようとしたその時。

 正面にいる人物が俺の視界に入り、俺の体が動きを止めてしまった。


 「? どうしたのアスマ。入らないの?」


 違うんだ、ミリオさん。入らないんじゃない。入れないんだ。

 正面の机を挟んだ向こう側にいるのがたぶんギルドマスターなんだろうとはおもうんだけど、その人の顔を見た瞬間に身動きが取れなくなった。

 何でかって?

 めちゃくちゃ怖いからだよ。顔が。

 何だありゃ、怖いなんてもんじゃないな。あれこそ顔面凶器ってやつだろ。

 オールバックに撫で付けられた白髪に、ゴツゴツした顔。

 鼻の頭には横一文字の傷があり、左目も縦一文字の傷があり閉じられている。

 更に整えられた口髭も生やしていて、その姿は見るものに強制的に恐怖心を植え付けるための要素を全て満たしていた。

 …間違いない。裏稼業の人だ。

 今すぐ回れ右して帰った方がいいんじゃないかって気がしてきた。

 いや、ここまで来て帰るわけはないけど、威圧感が半端ねぇ。

 おい、抗う意志仕事しろ! 精神異常耐性はどうした!


 「おい、いつまでそこに突っ立ってやがる。早く中に入りな」

 「あ、はい」


 …抗う意志よ。全然抗えてないよ。これじゃ従う意志になっちゃってるよ。

 …まぁ、冗談はここまでにしておいて、この人がギルドマスターか。

 この人とのやり取りで今後の俺の生活が決まると言っても過言じゃないんだ。

 慎重に話を進めないとな。


 「初めまして。アスマ・コガネイと言います。どうぞお見知りおき下さい」


 さぁ、面接を始めようか。

 …あ、さっき冗談って言ったけど、ギルドマスターの顔が怖いのと緊張しまくってるのは本当だから。

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