衝動3
こちらへ掛ける言葉はもう言い切ったとばかりに、剣を構えた男は地面に倒れ込むようにその身を前傾に倒すと、一息で俺の懐まで潜り込んできた。
その速度はミリオやガルムリード、或いはアンネローゼのものより鋭く速い。どころか、もしかすると速さだけなら俺に稽古をつけてくれていた時のゲインさんよりも上かもしれない。
「しっ!」
そして、一瞬で自分の剣の距離へ到達した男が鋭い呼気と共に放った反応することすら難しい高速の剣撃は俺の側頭部へと吸い込まれるように打ち据えられた。
「むっ?」
だが、それはその剣撃すらも今の《赤殻》を破るには至らず、剣を弾かれた男は表情を僅かに歪めるとこちらから距離を取るように後ろへと飛び退く。
と、その時。男の首元から鎖で繋がれた銀色の冒険者証が覗き、その男の冒険者としての等級が判明する。
銀色のプレートは中級冒険者の証であり、この男の強さが俺よりも遥かに上位のものである証明とも言える。
……そうか、これが中級。
恐らくは俺を拘束している後ろの男も中級冒険者なのだろうとは思うが、こっちの男もとてつもない怪力を持っているようで先程からこの腕から逃れようとしているがまるで身動きがとれない。
「へぇ、大口を叩くだけあって大した守りをしている。まさか下級の子に私の剣が防がれるとは思わなかった」
「ほぉ、どうやって防いだかは分からんけどやるじゃねぇか坊主」
その剣が防がれたというのに男は顔に余裕の笑みを浮かべ、後ろの男もまるでそれを意に介していない様子だ。
ということは、今の一撃はこちらを圧倒的格下と見なした上で意識を絶つだけのつもりで放ったものだったのだろう。
だとすると次にくる一撃は間違いなくそれを計算に入れたものになるはずだ、早くこの拘束から抜け出さないとまずい。
「それにしても分からないな。私の剣を受けられる程の力を持っておきながら何故君はこのように程度の低いことをしているんだ?」
「どうだっていいだろそんなこと。用があるのはそいつだけなんだ、あんたらは引っ込んでてくれよ」
「そうはいかない、君を止めてくれと受付嬢さんから頼まれているからね」
「ちっ」
どうしてこんなに邪魔をされないといけない。俺は間違ったことはしていない。先に許されないことを言ったのはそこの男だ。なのに何で……。
「……そいつが俺の大切な子を侮辱した。その子自身には関係のないことを引き合いに出してだ。あの子の心が傷つけられて、存在を貶されて、それでも黙っていられる程俺は出来た人間じゃねぇんだよ。だから邪魔しないでくれよ、なぁ」
これは人としての尊厳の問題だ。それを貶められてまで我慢し続けるなんてことは俺には出来ない。それだけそいつのしたことは許されないことなんだ。
「ふむ?何だ、それだけ殺伐とした気配を漂わせているからどれほどの因縁があるのかと思いきや、その程度のことで君はそこまで憤っているのか?」
だが俺の荒れ狂いそうな感情を込めたその言葉を、目の前の男はあっさりと切り捨てるようにそう言い放った。




