疑惑
「あのさ、それって本当に俺のことを言ってたのか?人違いとかじゃなくて?」
「さぁ。俺も周りの会話を勝手に聞いてただけだからよく知らないけど、少し前に北門のとこにある訓練場でとんでもない動きをする見覚えのない黒髪のやつを見たとか言ってて、この辺りじゃ黒髪なんてまず見ないから間違いなくそこにいるやつじゃないのか?って言われてたけど、お前のことじゃないのか?」
さっきからあまり気にしないようにしていたけど、初対面の相手をお前呼ばわりっていうのはどうなんだ?
こっちが頼みごとをしている以上そんなことでいちいち突っ掛かったりはしないけど、少し思うところはある。
まぁ、それに関してはとりあえず今はスルーするとして、今のザックの言葉で一つ思い当たる節があった。
「あー、思い出した。あの時のあれか」
以前ミリオやクレアと一緒に訓練場に行った時のことだ。
《死気招来》や《限定解除》なんかの新しく取得したスキルの効果を試すため、脳内に描いた仮想の敵を相手にかなり派手に動き回っていたら周りから妙に注目を浴びてしまったことがあった。
そういえばその時にミリオが何か色々言ってけど、この一月あっちには行ってなかったから完全に忘れてた。
まぁ、もう既にパーティーを組んでるしあまりそのことについて重要視してなかったからっていうのもあるけど。
「うん、それだったらたぶん俺のことだ。でも勘違いされたら困るから先に言っておくけど、それに関しては色々制限があって常にその力を出せる訳じゃないんだよ。本来の俺の実力はそんなに大したものじゃないから強い魔物を相手にするなんて無理だよ」
もしあの力を当てにして俺をパーティーに同行させてくれると言っているんならその期待には応えられそうもないので、せっかくのことで悪いけど今回の話は見送らせてもらわないといけない。
でないと俺たちも、このザックとその仲間たちも危険な目に晒されてしまう恐れがあるからな。
「あ、そうなのか?それは残念だな。まぁでも今回はただのゴブリン退治だからこっちの頭数が多ければそれだけ楽になるし、お前がそれでもいいならこっちに同行するのは全然大丈夫だぞ」
「そうか、それじゃあよろしく頼むよ。今すぐ出発するのか?」
「あぁ、そのつもりだ」
「分かった。じゃあ話も決まったし、行こうかクレア」
「あー、ちょっと待った」
俺が話をつけている間うしろで待機していたクレアに声を掛け、いざ出発しようとしたところでザックから待ったの声が掛かる。
「ん?何?」
「いや、ちょっと言いにくいんだが、うちのパーティーに同行するならそっちの子は置いていってくれないか?」
は?何を言ってるんだ、こいつは。




