冒険者ギルド
「というわけで、やってきました。冒険者ギルド」
「え、何? どうしたの急に」
別にどうもしてませんよ。
こういうのはお約束ってやつなんですよ。何かこういうのをやらなきゃいけない空気があるんですよ。そんな変なモノを見る目で見ないでくださいよ。
「気にすんなよ。それよりも早く行こうぜ。あんまり焦らすと緊張で俺の腹がやられちまう」
さっきからずっと腹から小さくキュルキュル音が聞こえやがるんですよ。
あー、あれだ、今まで入ったことのない店に初めて行った時に感じる、あの妙な緊張感が俺の腹を苛んでやがるんだ。
「そうだね。アスマの話がどのぐらい長引くかわからないもんね」
「だろ。ということで、先頭は任せた。俺は後ろから付いていくから」
「それぐらいは別に構わないけど、じゃあ行くよ」
冒険者って強面のやつが多そうでちょっと恐いんだよな。
絡まれたりしたくないし、ここはミリオさんに盾になってもらおう。すまんな。
ミリオを先頭に、俺たちは冒険者ギルドの両開きの扉を押し開き、中に足を踏み入れる。
扉を開けた時に、扉の上部に取り付けられた人が来たことを知らせるための鈴が小気味良い音を立てて響き。建物の中に居た人たちのいくつかの視線がこちらに向けられる。
その視線を避けるように俺はミリオを盾にして、その背中に隠れるように身を潜める。
別に人の視線が怖いとか、極端に目立つのが嫌いとかそういうわけではないけど、物珍しそうに観察されるのが苦手だからできるだけ知らない人間の視界には入りたくない。
幸い中にはそれほど人がいなかったし、視線を向けた人たちもすぐに視線を戻して自分の作業に戻ったから助かった。
もう隠れる必要はなさそうなのでミリオの背後から少し離れ、少し建物内に視線を飛ばしてみる。
まず、はいって正面に受付カウンターが複数あり、カウンターごとに受付の人間が書類整理をしたり、書類に何か書き込んだりと、仕事をしている。
その奥には扉があり、たぶんその人たちの休憩スペースやら資料室なんかがあるんじゃないかと思う。
左側には広めの空間があってベンチが置いてあるから待ち合いスペースになっているんだろう。
右側には任務が書かれているだろうとおぼしき紙が貼り付けられたボードが置かれていて、二階へと続く階段も見つけた。
下から見た限りじゃ二階は本棚がいくつも並べられていて、冒険者だと思われる人が本を読んでいた。
冒険者のために用意されたものなのだとしたら、あそこには魔物について書かれた本や、冒険に必要な知識が書かれた本などが置かれているんだろうか。
まぁ、その辺りはいずれ分かるだろうし、今は自分の用件に集中しよう。
「あの受付さん、ちょっといいかな?」
「ちょっと待ってくださいね」
ミリオが正面で書類整理をしていた受付の女性に声をかけ、女性は手元の書類を整えるとそれを机の脇に寄せ答える。
「お待たせしました。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「彼のステータスを調べるために鑑定石を借りたいんだけど」
「はい、鑑定石ですね。ステータスを調べるということは、冒険者登録の手続きでしょうか?」
受付さんが俺を一瞥した後そう言ったのはたぶん、俺ぐらいの歳でステータスを開けないってことはないだろうから冒険者登録だろうなっていう推測なんだろうけど、残念ながら外れだ。
「いや、ちょっと気になることがあって、他人にもステータスが見えるように鑑定石を使いたいんだ」
「気になること、ですか。……分かりました。少々お待ちくださいね」
そう言うと受付さんは奥の扉の中に入っていった。
その数分後にその手に腕で抱えるように石盤のようなものを持って帰ってきた。
「お待たせしました。どうぞ」
これが鑑定石か。
真ん中に赤い玉が嵌め込まれてる以外には、そこまで特徴って言えるほどのものはないな。
魔道具って何かもっと神秘的なものを期待してたんだけど、ちょっと拍子抜けだ。
「じゃあアスマその赤い玉の上に手を置いてみて」
「おう」
見た目はこんなのだけど、一応初めての魔道具だからちょっとワクワクするな。
まぁ、ステータスを開く道具だから普通にいつもの半透明な窓が出てくるだけなんだろうけど。
そう思いつつも、多少の期待を込めて赤い玉に手を伸ばしてそれに触れてみる。
すると、いつもステータスを開く時の感覚がした直後に赤い玉が微かに発光し、その光が石盤全体に広がり文字のような形が形成された。
「お、おぉ?」
何か思ってたよりもすげぇ魔法っぽい現象が起きてる。
この光の文字は全く読めないけど、たぶん俺のステータスが書かれてるんだろうな。
そんな風に内心ちょっとはしゃいでた俺をよそに、みるみるうちに光は輝きを失い、光の文字が完全に消え去った。
そして、光が消えた瞬間に掌から何かが俺の中に流れ込んでくるような感覚を覚え、それと同時に脳裏に俺のステータス情報が浮かび上がってきた。
マイルドな表現をすればそんな感じだが、どちらかと言うと無理やりに情報を理解させる電気信号のようなものを頭の中に流されたという感じだ。ちょっと気持ち悪い。
でも、石盤に浮かび上がった光の文字は俺には読めないものだったし、もしかしたらこの魔道具がそれを俺が理解できる形に翻訳してそれをこういう感じで流し込んできたのかもしれない。文字を読めない人間が俺だけということはないはずだし、そういう人向けの機能が組み込まれているのかな。にしてもこの不快感はもう少し何とかならなかったもんかね。
「どうアスマ? 頭の中にステータス情報が浮かび上がってきたと思うんだけど」
「あぁ。何か変な感覚がした後に、確かに浮かび上がってきたよ。で、これをどうやって他人が見るんだ?」
「ちょっと横からごめんね」
そう言うとミリオは俺の横から手を伸ばして、鑑定石の石盤部分に手を触れた。すると、一瞬だけ再度玉が発光し、消えた。
「えっと、どうだ? それで見えてるのか?」
「うん。見えてる。でも、名前のところがアスマ・コガネイになってるんだけど。家名があるってことはアスマってもしかして貴族だったの?」
「いやいや、貴族じゃないよ。ただの平民だって。家名があるのは単純に俺が住んでたところにそういう文化というか風習みたいなのがあったってだけだよ」
「へぇ。そういうところもあるんだね。初めて聞いたよ」
「まぁ、今はそんなことよりもスキルの確認をしてほしいんだけど」
「ごめんね。えっと……あ、本当だ、昨日聞いた通りだ。スキルに称号。こんなものがあるだなんて」
「な、あっただろ? スキル。いや、やっぱり見せるのが一番手っ取り早いよなこういうのは」
「……スキル? 称号?……何ですか、これは?」
俺とミリオがスキルについての話を始めた時点で鑑定石に触れた受付さんがミリオ以上に、物凄い驚いた顔で絶句している。
こういうの反応をするってことは受付さんはスキルのことを知らないのか。
ってことはますます、俺だけスキル制疑惑が浮上してきた訳なんだけど、まだ確定じゃないんだよな。
「受付さんも見たことない? スキル」
「えぇ。見たことも、聞いたこともありません。何なんですか、これは?」
ここに来て初めて受付さんが俺に話しを振ってきた。
ちっ、会話は全部ミリオさんに任せようと思ってたのに。初対面の人との会話って緊張するから嫌なんだけどな。
「……何って言われても俺にも分からないけど。受付さんも聞いたことがないんだとすると、あと知ってそうな人っていったら受付さんの上司ぐらいかな?」
「上司、ギルドマスターですね。確かにギルドマスターなら何か知っているかもしれませんね。少し待っていてください。ギルドマスターに連絡を取ってみますので」
「え?いいの?ギルドの一番偉い人にこんなことで連絡取ってもらって」
「えぇ、いいんですよ。むしろ、こういうことで連絡を取らなかったらあの人すごく怒るんで」
「……怒るんだ」
「はい、それはもう。……それに《ギフト》の例もありますし」
「え?」
「いえ、何でも。それではすぐに戻りますので」
そう言い残して受付さんはまた奥の扉の向こうに引っ込んでいった。
というかギルドマスターって、どういう人なんだろ。今の話だけじゃ些細なことでキレる短気なやつっていう悪印象しかないんだけど。
まぁ、でも連絡を取ってくれるっていうんならありがたい。どうせ話をするなら偉い人とした方が分かりやすいからな。
でも上手くいく保証はないから気合い入れて頑張らないとな。




