魔術訓練6
……そう言われてみれば、確かにただ魔術を扱えればいいという者や、とりあえず魔術を使ってみたいという者にとっては、小難しい技術を一から教えられるより不完全であろうとも手っ取り早く技能を取得出来る方が分かりやすくて良いのかもしれない。
正直俺にしても、最初の頃は身体能力の向上を目的として魔術を覚えたのであって、最近まで本格的にその扱いを教わろうとしたことはなかったかもしれない。だからこそ一応の知識だけを教えられたということなのだろうか?
だが《限定解除》なんていうスキルを取得した今の俺にとって魔術というものは、手札を一枚多く所有するという目的だけではなくスキルの使用に制限が掛かった状況でも何とか最低限の戦闘力を確保するために必要不可欠なものであることは間違いない。
そして、魔術を人並みかそれ以上に扱えるようになるために魔力に関しての深い理解が必要だというのなら、喜んでそれを学びたいと思っている。
「あー、そういえば普通の人たちも日常生活で魔術を使うんだったな。だったら確かに技術が普及しやすいように分かりやすく教えるのは当たり前か」
「うむ、そういうことだ。魔術を極めるためには途方もない時間と探究心、それに根気強さが必要だからな」
世界最強の魔術師を自称している程魔術に対して造詣の深いシャーロットが言うと、その言葉にはそれ相応の重みを感じる。
呪いによって長い時間を生きてきたのであろうこの子がその高みに至るまでにどれ程の修練を積んだのかは分からないが、たぶん俺なんかには想像も出来ない程の様々なことを経験してきたんだろうな。
その頂で得たものの一端を教授してくれるというんだから、俺もそれに応えるべく全力で技術の習得に臨むべきだろう。
「さて、それでは披露するとしようか。魔術の真髄というものを」
そう言ったシャーロットは集中するためかその目を閉じる。
そしてそれを開いた瞬間、体中から膨大な量の魔力が陽炎のように揺らめき立ち、シャーロットの周囲から尋常ではないプレッシャーが放たれる。
攻撃の意志を感じないからなのか《危険察知》は働かないが、背筋を冷たい汗が伝い、普通ではあり得ない光景に息を飲み見入ってしまう。
これが魔術師としての最高峰の力なのだろうか、そのあまりの凄まじさに畏怖を覚えるとともに、尊敬の念を抱く。
これは、この力の波動は、間違いなく俺がこの世界に来て感じた中で一番のものだ。




