口調2
自分で蒔いてしまった種とはいえ予想外の展開を見せる状況に少々困惑し、思わずシャーロットから目を逸らしてしまう。
すると、その視線の先にいたクレアが目に入る。その表情はなんとも言えない微妙なもので、そこからは感情を窺うことができない。
こんな顔をしているクレアを見るのは初めてかもしれない。
そして、上機嫌にドヤ顔を浮かべていたシャーロットもクレアのその表情に気づくと、「うっ」と言葉を詰まらせるようにして、表情を瞬時に苦いものへと変化させる。
『……シャロちゃん、またその変な言葉遣いしてる。似合わないから止めた方がいいって言ったのに』
「いや、でも、あの、ですね。お、お兄さんがこっちの方が良いって言ったので、それで、ですね」
……ここで俺に振るのか。
まぁ、確かに聞き慣れてる分こっちの方が良いって言ったのは俺だけど、ノリノリでそっちに変えたのはシャーロットさんだから自分でもそっちの口調気に入ってるんじゃないのか。
『うーん。でも、シャロちゃんせっかく可愛いのにそんなんじゃもったいないよ』
「あはは、ありがとうございます。でも、こればっかりは……」
クレア的にはシャーロットの厨二口調はあまり好ましくないようだが、シャーロット的にはそちらの方が好ましいようで、両者の好みは対立してしまっているようだ。
この場合俺はどうするべきなんだろう。というか、俺の言葉が原因でこうなったんだけど、正直割りとどっちでも良いからちょっと面倒臭くなってきた。丸く治めるにはどうするか……。
「あー、なんて言うか。そうだな、シャロちゃんはなんでそういう言葉を使い始めたんだ?」
とりあえずの着地点を探るために、まずはその言葉を使い始めることになったきっかけを聞いてみることにする。
「それは、あれです。お店を開いている関係上、ボクのこの外見だと相手がこちらを軽く見てくることが多くて、薬の説明を聞き流して副作用を軽視した挙げ句に、それが原因で苦情を言ってくるような者もいたので侮られないようにするために威厳のある強そうな言葉を使い始めたんですが……」
「使ってるうちに気に入っちゃった、とか?」
「……です」
なるほど。意味もなく使っていたわけではないと。
「それで、効果はあったのか?」
「あ、はい。難しい言葉を使って自信満々に話していると、相手が勝手にこちらを長寿の種族か何かだと勘違いしたりして、そのおかげで話が進みやすくなりました」
確かにそう勘違いするのも無理はないな。というか、なんとなく俺もそうだと思ってたし。そう考えるとその言葉遣いも無駄ではなかったというわけだ。




