念話
「一時的な力に対して注目されても微妙な感じだけど、まぁなんにしても評価してもらえることは嬉しいことだな」
「うん、良いことだと思うよ」
ミリオのその言葉に対して「だよな」と返し、互いに笑顔で向き合う。
そうしていると、シャツの袖を引っ張られる感覚がしたのでそちらを向くと、クレアがこちらを見上げて何かを言いたげにしていたのでいつもの通りに《思念会話》を発動させて、互いの間に念話を行うための経路を構築しようとしたが、何故か繋がりが形成される気配がなく、「あれ?」と思ったところで思い出す。
あ!そうだ、今スキル使えないんだった。
街の中ならスキルが使用できなくても大して問題はないと思ってたけど、これは大問題だ。
クレアと会話ができない!
くそっ、なんてことだ。こんなところで思わぬ弊害が起きやがった。クレアとの会話は俺にとって最大級の心の癒しなのに、それができないなんてあんまりだ。
戦闘面にばかり気を取られてこんな大事なこと気がつかないなんて、馬鹿だ俺は。
「……ごめんクレア。《限定解除》の反作用でまだスキルが使えないから《思念会話》も繋げないみたいだ」
はぁ、最悪の気分だ。
昨日ミリオが言っていた、クレアが俺のことを好きだっていう話だけど、俺が《思念会話》を使えるからっていうのもその理由の一つになっているのは間違いないだろう。
となると、この子にとってスキルの使えない今の俺はどの程度の価値があるんだろうかって考えるとすごく恐い。
全く価値がないことはないと思いたいけど、好きな相手の期待や要求に応えられないのは辛い。
そうして俺が肩を落として落ち込んでいると、それを見兼ねたのかクレアが両手で俺の手を挟み込むように握ってくる。
こんな俺にまで気を使ってくれるなんて、やっぱりクレアは優しいな。
そんな風に自虐気味に自分の不甲斐なさを痛感しながらも、クレアの気遣いに心を癒されていると、集中するように目を閉じたクレアから魔力の流れのようなものを感じた直後、頭の中に直接的に響くようにクレアの声が流れ込んできた。
『……アスマ……君』
「え? クレア?」
『……聞こえ……てる?』
これは以前にも聞かされたことのあるクレアの魔力操作による念話か?
だが、それは前に聞いた時よりもはっきりとしたもので、しっかりと俺のもとへ届いてきている。
「あ、あぁ。聞こえてる、ちゃんと聞こえてるよ。すごいな、いつの間にかこんなに上達してたんだな」
『……えへへ……練習……してるから』
まだ流暢に話すことはできないようだが、それでもこの前に比べると凄まじいまでの進歩を見せている。
相変わらずこの子はどれだけ俺を驚かせてくれるんだろう。その成長っぷりに思わず感嘆してしまう。
これは落ち込んでいる場合じゃないな。うかうかしていたら本当に置いていかれてしまうかもしれない。この子の努力を俺も見習わないといけないな。




