視線
そのような考えを巡らせていたところ、ふと視線を感じ、そちらへ顔を向けると、少し離れた場所で俺と同様に鍛練を積んでいたであろう人たちや、ミリオにクレアがこちらを見ていた。
俺はさっきぶっ倒れたままの無様な格好をしている。つまり、みんなが見ているのは……。
は、恥ずかしーっ!
なんで寄ってたかってみんなこっちに注目してるんだよ。ったく、そんなに人がずっこけてんのが面白いかよ。
何事もなかった風を装ってその場で起き上がり、背についた土埃を払い、槍の穂先に付着している土を払いのけ刀身に変化がないか確認していく。
うん、特に問題はないな。これなら研ぎに出す必要はなさそうだ。
それを済ませ、もう一度周りへ視線を向けてみると、大半の人たちは自分たちの鍛練に戻ったようだが、未だにこちらをちらちらと見て、気にしているようだった。
こっちを見てる暇があるならもっと真剣に鍛練に励めよな。そんな意識散漫だと怪我するぞ。
こんなの俺がゲインさんなら間違いなくぶん殴られてるからな。
そう思って心の中でそいつらに注意喚起していると、そちら側からいつの間にかミリオとクレアがこちらに歩を進めて来ていた。
この二人に限っては人を馬鹿にするようなことはないが、恥ずかしさから目を逸らしてしまう。
「大丈夫? アスマ」
「あー、おう。大丈夫だけど」
傍までやってきたミリオはこちらを様子を窺うようにそう声を掛けてきたが、少しぶっきらぼうな対応をしてしまう。
でも、さっきの情けない姿を見られてたのが本当に恥ずかしいからしょうがない。許してくれ。
自分では完全に土埃を払い切れていなかったからか、クレアはそんな俺の背を優しい手つきではたいてくれている。
というか、服越しとはいえあんまりにも自然に体を触れられたから、ドキッとしてしまった。
普通に接することができるようになったとはいっても、好きな相手に接触されるとやっぱり気持ちが落ち着かなくなる。
自分から頭を撫でたりする分には大丈夫なんだけど、向こうから触れられると妙に緊張してしまう。まぁ、それだけ信頼されてるみたいで嬉しくもあるんだけど。
「ありがとうなクレア」
後ろを振り返り礼を言うと、クレアは首を振り、どういたしましてと言わんばかりに満面の笑みを浮かべてくれる。
あー、可愛いなぁ。本当に何でこんなに可愛いんだろう、この子は。そりゃあ好きになるのも仕方ないってもんだよな。
まぁ、合法か非合法かで言えばちょっとあれなんだけど、こっちでは16歳で成人扱いだからあと一年ぐらいで一応は合法になるわけで、別に疚しいことは何もないはずだ。恐らく。たぶん。




