仮想敵3
連続で《力の収束》を発動させることで一切速度を落とすことなく小刻みに左右前方へと低空跳躍を繰り返すことで、背後から追尾してくる弾丸を避けながらもブラッドウルフに迫る。
そして、その距離が一定まで縮まったところで三割で発動させていたスキルの収束率を六割まで引き上げ、一足飛びにその距離をないものにする。
急速に接近した俺に向け、ブラッドウルフは地面から幻想の槍を出現させるが、十倍の知覚でならそれに対応するのは訳もなく、身を捻ることでそれをかわし、次の槍を出現させる前に三割の出力に戻した《力の収束》を連続で使用して狙いを定められないように移動し、手にした槍をブラッドウルフへ突き出す。
だが、それは当たり前のように躱されてしまい、追撃を繰り出そうとしたところで、背後から迫ってきた弾丸をかわすために真横へと跳躍してその場から離れる。
それと同時に、槍を肩口で引き絞るように構え、地に足が着いた瞬間《力の収束》を発動させ、ブラッドウルフの足元へ向け槍を射出する。
一切のブレもなく一直線に高速で投げ放たれた槍だったが、ブラッドウルフはそれすらも背後に跳躍することでかわす。
しかし、地から足を離すその瞬間を狙っていた俺は、足元を爆発させるような勢いで前方へ飛び出し、ブラッドウルフに肉薄した直後、滞空中のそいつへ向け、収束させた力を乗せた剣を全力で叩き込む。
それを受け止めるために幻想の盾を展開するブラッドウルフだが、それごと斬り裂くという意志を込めて放った斬擊は、盾とその後ろにいた相手の片方の前足を斬り飛ばす。
だがそこで動きを止めずに、斬撃を放った勢いを利用して体を回転させることで瞬時に上段へと剣を戻し、もう一撃を相手の脳天へと叩き込む――
いや、叩き込もうとしたところでいきなり急激な違和感に襲われ、動きを止めてしまう。
って、あっ!
動きを止めたところへ、背後から幻想の弾丸が俺の背を貫き、心臓が破壊されてしまった。
……あーあ、死んじゃった。
今のは駄目だな。変な感覚がしたからといって攻撃を途中で止めてしまったのは完全な俺のミスだ。あんなんじゃ殺されても仕方がない。
まぁ、その反省は後でするとして、違和感の正体はもう分かっている。辺りを見れば一目瞭然で、人が普通の速度で動き、俺自身の動きも元に戻っている。
これはつまり、《思考加速》が解除されてしまっているということであり、《限定解除》の効果時間が終わってしまったという訳だ。
試しにスキルを発動させようとしてみたが、それは不発に終わる。もしかしたら発動自体はしているのかもしれないが、スキルの効果は一切この身に付与される気配はない。
上段に構えたままになっていた剣を下へ降ろすが、それがいつもより重く感じるのも《重量軽減》のスキルが無効化されているからなのだろう。
ということで、スキルが無効化されるという効果は本当だということが分かった。後はこの無効時間がどれぐらいなのかということなんだが、できるだけ短時間なら嬉しいな。と淡い期待を寄せてみるが、さてどうなることやら。




