遭遇
「裸足で森の中に行くのはさすがに厳しいし、ここは無難に原っぱの方に行くかね」
裸足で森なんて入ったら尖った枝が足に刺さったり、よく分からん虫に噛まれたりしたら嫌だしな。バイト以外ではあんまり外出ないから割とデリケートだし俺。
さて、歩きだすにしてもこれだけ開けた場所だとどっちに行けばいいのか迷うな。
んー。こういうときはやっぱあれかな。
えっと、あったあった。この枝が倒れた方に向かって行くことにしよう。迷ったときはこれに限るよな。
「ほいっ、と」
真っ直ぐ、ちょい右かな。
よっしゃ、じゃあ行きますかね。お、案外裸足でも痛くないもんだな。まぁ、裸足で暮らしてる人たちもいるぐらいだし意外となんとかなるもんだな。
まだ分からんけどこまめに休憩をとって長時間歩き続けたりしなけりゃ問題はなさそうかな。できれば民家でなにか履くものを借りれればいいんだけどな。
ん? 何かいるな。人、あの背丈は子供か? なんか手に丁度収まるくらいの長い木の棒みたいなの持ってキョロキョロ地面を見回してるけどなんか落とし物でもしたのか? 一緒に探してあげたらお礼になんか貰えないかな。
まだそこそこ距離はあるけど二本足で歩いてるしさすがに野生動物のたぐいじゃないと思うけど、変なやつだったらちょっと怖いからもう少し近づいて話が通じそうなら声をかける方向でいこう。
あれ? でもよく見るとあいつなんかおかしくないか? 最初は緑色の服でも着てるのかと思ってたけど、あれは地肌が緑色なんじゃないか?
……ここ日本だよな? 肌を染色するような文化がある地域なんて知らないんだけど。
あ、こっち見た。ってなんかすげぇこっち見てんだけど、やっぱりやばいやつなのではないですか?
「ギギャー!」
……え? なに? 遠くだからよく聞こえなかったけどなんかギギャーとか叫びながらこっちに走ってきたんだけど。
「いや、こわっ!」
ホントにやばいやつじゃねぇかよ! っちょ逃げた方がいいんじゃないか、つか逃げるよ?
さすがに子供に負けるほど足は遅くないはずだし、来た道引き返すのもめんどくさいからとりあえず別の方向にダッシュだ。
うわ、久しぶりに走ったら足重っ。なんかイメージ通りに体が動かない。
あー、完全に運動不足だなこりゃ。家に帰ったらランニングでも始めようかね。
げっ、つーかあのガキ足速っ! もう結構距離詰められてんじゃねぇか。うわ、俺なさけねぇ。子供に駆けっこで負けるとかないわー。
しかもちょっと走っただけで息あがってきた。まじで糞雑魚じゃねぇか俺。
あー、もういいや。追いつかれてもさすがに子供相手にボコボコにはされねぇよないくらなんでも。
……フラグじゃないからな?
ってこっちが息整えてる間にもうすげぇ近くまで来てやがるし。
あれ?なんだあのガキの耳。なんか長いし尖ってるし。
いや、肌が緑色で長くて尖った耳とか、ゲームにでてくるゴブリンみたいなやつだな。
え?みたいというか完全に見た目ゴブリンじゃないか。
「嘘だろ? なんの冗談だよ」
もしかしたらドッキリかなんかで騙されてるだけかもしれないけど、ここにきて急に肌が粟立つ。
追いつかれたらやばいと、俺の勘が全力で警鐘を鳴らしている。
「ちっ! 訳分かんねぇっての!」
足が重いとか息があがって動悸が激しいとかそんなのは全部無視しろ。とにかく走れ!
こうして俺の二度目の逃走劇が始まった。