酒場10
「はい、深呼吸して」
ミリオから有無を言わさぬ圧力を感じ、気圧される形でそれに従い、心を落ち着けるように努める。
そして、何度か深呼吸を繰り返すことで多少の冷静さを取り戻したところで、再度ミリオへ質問を投げ掛ける。
「それで、クレアが俺のことを異性として好きだという話についてなんですが」
「うん。さっきテッドにも言ったんだけど、間違いないと思うよ。というか、あれだけ好意を向けられてたのにアスマは気づかなかったの?」
「いや、まぁ好かれてるのは知ってたけど、なんていうかあれって小さい子特有の無邪気な好意というか、一緒に暮らしてる兄貴的な存在として俺に甘えてきてるのかなーって思ってたんだけど」
違ったのかな? でも、もしかしたらミリオがそれを勘違いしているって場合もあるのでは?
「じゃあ聞くけど、アスマはクレアが僕に甘えてきているのを見たことがある?」
「え、そりゃ……そういえばないな」
「僕と手を繋いだり、一緒に寝たり、世話を焼いたりしている
のを見たことは?」
「あー、見たことないな」
思い返してみると確かに今までそんな場面には一度も遭遇したことがない。
ミリオがクレアから嫌われている、ということはないだろう。二人の仲は良好なのはよく知っている。
ということは、俺にだけなのか? 俺にだけ……。
「でしょ? それに、そもそもあの子は他人にそれほど懐いたりしない方だからね。家族以外ならアスマかシャーロットぐらいのものだよ」
「そ、そうなんだ」
「うん。それにね、最近のあの子を見てたらすぐに分かるよ。いつもアスマのことを見てるし、その時の視線もなんだか熱っぽいというか、ね。冒険者になろうとしてるのだって、結局はアスマと一緒に居たいからって理由だし、それだけの証拠が揃えばさすがに分かるよ」
……なんかミリオの口から色々な事実が語られてるけど、俺そんなにクレアから見られてたのか。なんというか、また顔が熱くなってきた。
「あー、その、あれだな。ミリオさん、よく見てるんだな」
「まぁね。昔に比べたら今はあまり構ってあげられてないけど、それでもクレアは僕の大事な妹だからね。だから、できるだけあの子が幸せになれるように願ってるんだけどね」
「……」
そうだよな、両親がいなくなってから今まで兄妹二人で生きてきたんだもんな。苦労したことも一杯あっただろうし、寂しい思いもたくさんしてきたことだろう。
でも、だからこそ妹には幸せになってほしいというミリオの気持ちは分かる。全てを分かってあげることは出来ないが、それでもこれまでこの兄妹を見てきたから、ミリオがクレアのことを大事にしてきたことは分かっているつもりだ。
だから、もし俺がクレアと恋仲になるのなら、ミリオのそういう思いにも応えていかなければならないということだ。これは思ってた以上に責任重大なのかもしれない。