酒場7
「そ、そうだよな。さすがに戦姫並みに強いやつがそうそういるわけないよな。あー焦ったぁ。そんなやつらに馴れ馴れしい態度を取ってたなんてことが上にバレたら後で何言われるか分かったもんじゃないねぇからな」
「本当だぜ、まったくよ。見た感じそんな強そうじゃねぇのに実は、なんて冗談みたいな展開じゃなくて良かったぜ」
「いや、言い方。いくら本当のことだとしても、もう少し優しい表現の仕方ってあるだろうに」
否定はできないけど何か見た目がモブキャラみたいって言われてる気がして嫌だ。……実際に俺はモブもいいとこだけどな。
「悪い悪い、つい本音が漏れちまった」
アストンが頭の後ろを掻くような仕草とともにそう言って苦笑しているが、それは謝ってるつもりなのか? いや、別にいいんだけどさ。
「まぁまぁ。あれだ、仕切り直しにもっぺん乾杯でもしようぜ。ほれ、全員グラスを手に取って」
場に微妙な空気が流れ始めたのを嫌ったのか、テッドがそれを一新するためにもう一度乾杯をしようと提案してくる。
まぁ、特に断る理由もないのでグラスを手に取り、持ち上げる。全員が持ち上げたのを確認するとテッドは満足気に頷く。
「よしよし。ほんじゃ、俺たちの友情に乾杯ー!」
その掛け声に合わせて再度乾杯するが、その掛け声はどうなんだ?
「友情って、別にそこまで親しくなった覚えはないんだけど」
「おいおい、そんな冷めたこと言うなよ。一緒に酒を飲んだらそれはもう友達になったようなもんだろ? 酒友というか、飲み友? まぁそんな感じだろ?」
……ん。確かに今の発言は俺が空気を読めてなかったかもしれない。酒を飲む場面で重要なのは、状況を楽しもうとする心と、場を盛り上げるためのノリだ。
飲みニケーションという言葉が存在するぐらいには、酒を飲んでの交流というものは意義のあるものだろうし、俺みたいに自分から積極的に他人と関係を持てない人間にとっては、こういう状況こそを大事にしていかなければならないんじゃないだろうか。うん。せっかく場が用意されているんだからこれを利用しない手はないだろう。
「あー、今のは俺が悪かったよ。そうだな、俺たちは酒飲み仲間ってことで。よし、そうと決まればもっと飲もうぜ。あ、お姉さん! 注文いい?」
店員に声を掛け、こちらに来るまでの間にグラスの中身を一気に飲み干す。
「おっ、良い飲みっぷりじゃねぇの! こりゃ俺も負けてらんねぇな」
「はっ、良いねぇ。そんなら俺もどんどん飲むとするかよ」
「ははっ、凄いねアスマ。僕は真似できそうにないよ。でも、こういう雰囲気もたまには悪くないかもね」
俺の一気飲みに触発されてテッドとアストンもグラスの中身を飲み干し、店員に新たに酒の注文を頼む。
酒自体が苦手だと言っていたミリオはそれには付き合うことはしないが、それでもこの状況を楽しんでくれているようで良かった。無理やり付き合わせるのは俺の趣味じゃないしな。