酒場5
「それじゃあ、それまでなんの話をするかねぇ」
テッドが顎に手を当てて視線を上に向け、何かを考えるような仕草を取る。
「ふむ。この二人冒険者なんだろ? なら、あの話なんていいんじゃねぇか? ほれ、戦姫のやつ」
「おぉ、あれな!」
そこへ隣からアストンが一つの提案を出すと、手を打ち合わせてなるほどといったようにテッドが頷く。
戦姫? それって確か……。
「戦姫って、アンちゃんのことだっけ?」
以前にミリオがアンネローゼのことをそう呼んでいたことを思い出し、隣のミリオにその確認を取ってみる。
「あ、うん。確かにアンは槍の戦姫って呼ばれているけど」
「あぁ、違う違う。槍じゃなくて、剣と斧の戦姫の話な」
剣と斧の戦姫か。あー、そういえば上級冒険者にそんな人たちも居るって聞いたような気がするな。
「で、その人たちがどうしたんだ?」
「あぁ、なんでも近々その二人がこの街にやってくるらしいんだよ。かなりの有名人だし、お前らも同じ冒険者なら興味あるんじゃないか?」
「へぇ。うん、それは確かに興味があるね。僕も直接その二人を見たことはないから楽しみだな。でも、ここへはいったいなんの目的があって来るんだろうね?」
そう言われればそうだな。別にこの街を拠点にしているわけでもないんだし、ここへは何か目的を持ってやってくるんだろう。なんだろう、魔物の討伐依頼とか?
「その辺は噂程度でしか知らないけど、何か槍の戦姫の実力を試しに来るとかなんとかって聞いたけどな」
ほう、それはあれか。自分たちと同じく戦姫と呼ばれているアンネローゼの力がどれほどのものかを見定めにくるってことか?
まぁ、アンネローゼの実力であれば戦姫たちの御眼鏡に適うであろうとは思うが、相手も破格の才能を持った者である以上はそれは絶対とは言えない。
というか、実力を試すっていうことはアンネローゼとその戦姫たちとの模擬戦が見られる可能性があるってことか。
それは正直かなり興味深い。思えば、俺はアンネローゼの実力の底をまだ見たことがない。俺やミリオ、ガルムリードなどでは本気を引き出すことができなかったからだ。だが、アンネローゼよりも遥かに強いであろう者が相手であればそれを知ることができるかもしれない。
更に、アンネローゼ以上の上位の実力者がどれほどの戦闘能力を持っているのかを知ることができればそれを今後の目標として設定することができる。
現時点でそこへ辿り着けるとは到底思えないが、本気で強くなると決めた以上は半端な強さで満足するつもりはない。どうせ目指すのであれば、目標は高い方が良いというものだ。