酒場3
その客たちから視線を正面に戻すと、テッドが笑顔で手招きをしていたので、三人でそちらに向かう。
「あ、給仕さん! ここのテーブル片付けてよー!」
「はーい!ただいまー!」
テッドが手を挙げて大きな声で従業員のお姉さんに呼び掛けると、客が帰ったことには気づいていたのか客の間を小走りで抜けてくると、すぐさまそちらへと辿り着きテーブルの上に並べられた食器を一ヶ所へ重ね、台拭きでテーブルに付いた汚れを拭き取り、重ねた食器を器用持ち上げると、奥へと運んでいった。
そして、片付いたテーブル席の椅子へテッドが腰を下ろすと、自分とテッドの分の酒とつまみをカウンターから持ってきたアストンが、テーブルの上へそれを置き、テッドの隣の席へ座ったので、俺とミリオはその正面の席へと着く。
そこで、先程の人たちの妙な態度から覚えた疑問の答えを、テッドにもらうために質問を投げ掛ける。
「なぁ、何かさっきの人ら同情するような目で俺を見て慰めの言葉を掛けていったんだけど、なんて言ってこの場所空けてもらったんだよ?」
「え? そりゃ、あっちの黒髪のやつが女にこっぴどく振られて落ち込んでるから、その愚痴を吐かせるために朝まで飲み明かすからちょっと場所譲ってくんね? って言っただけだけど?」
「おい」
何言ってくれてんだよお前、振られてねぇよ。縁起でもないこと言うなや。もし、本当にそうなったら本気で立ち直れないからな、俺。
「うっへへ、冗談じゃねぇの冗談。……え? 冗談、のつもりで言ったんだけど、あれ? 本当に?」
まずいことを言っちゃった? みたいな感じに口元を手で覆い隠して視線を逸らせるテッド。
「いや、違うから! 振られてないから! 告白すらしてないから!」
「ほほぉ?」
「はぁん?」
テッドの言葉に少し熱くなって言い返すと、門兵の二人がこちらへ嫌らしい笑みを向けてくる。
「まだ、告白をしていないってことはつまり、告白したい相手はいるってことだ」
「うっ」
しまった、口を滑らせた。
まだ心の準備も済んでないのに、いきなりそこに話が転んでしまった。
「いや~、こりゃあ酒が進むぞぉ~。あ、給仕さん! 注文いい?」
「はーい!」
俺の恋愛事情を酒の肴にする気満々なのか、急に上機嫌になったテッドが、追加の酒を頼むために店員へ声を掛ける。
「はい、何にしましょう?」
「俺はエールと適当に串焼き三本頂戴」
「ほんだら、俺はエールと木の実の盛り合わせで。お前らはどうする?」
アストンがこちらへそう問い掛けてくるが、俺メニュー何があるか知らないんだけど。
「ミリオは何頼むんだ?」
「僕は果実酒だけでいいかな。あんまりお酒強くないし、お腹も空いてないしね」
「そっか。じゃあ俺も酒はそれにしようかな。それと、串焼き二本」
「はいよ、エール二杯に果実酒二杯。串焼き五本に木の実盛り合わせね」
注文を復唱して間違いがないか確かめた店員が金額を提示してきたので、全員分の金を革袋から取り出して払うと、店員はそれを受け取り、注文を伝えるために奥へと引っ込んでいった。