酒場2
「おう、もちろん覚えてるよ? うん」
「くっはぁ、嘘くせぇ返事だなおい」
「まぁそう言ってやんなや。俺らん名前覚えてただけでも大したもんだと思うぜ?」
俺のわざとらしい返事に大袈裟な反応を返すテッドだが、それを横からアストンが軽くたしなめてくれた。
なんとなく寡黙で無愛想な人だと思ってたんだけど、案外いい人だなアストン。
「それにわざわざ声を掛けてきてくれたってことは、そういうことなんじゃねぇんか?」
「え? って、あぁなるほど! つまりは、冒険者のアスマ君は俺たちにこの場で酒を奢ってくれると?」
「だろうよ」
……うん、別にいい人ではなかったね。
二人はまるで催促でもするように、こちらにいい笑顔を向けてくる。
まぁ、奢る理由はあるからそれ自体は構わないんだけど、どうせならこの二人にも相談に乗ってもらうか?
相談を持ち掛けるほど深い仲ではないが、でもだからこそ客観的な視点からの率直な意見がもらえるかもしれない。
それに、ミリオと二人でこの話をして気まずくなった場合には、場の空気を変えてもらえるかな、という打算的な部分も込みで考えれば、それもありだな。うん。
「よし、分かった。二人には酒とつまみを奢るってことでいいか?」
「お、さすが話が分かるねぇ!」
「へへっ、悪いな」
「あぁ、これで借りは返したってことで。それでなんだけどさ、それを飲み食いしながらでいいから二人ともちょっと俺の話に付き合ってくれないか?」
俺が顔の前で手を合わせてそう頼むと、二人は互いに顔を合わせ、目で意思疎通を図ったようだが、すぐさまこちらに顔を戻して、頷く。
「あぁ、俺はいいぜ」
「俺も構わんよ」
「そっか、ありがとう。っと、勝手に決めたけどミリオもそれでいいか?」
「僕は元々アスマに誘われて来たわけだし、アスマが構わないならそれでいいよ」
後ろを振り返りミリオへ確認を取ってみると、あっさりと同意の返事がかえってくる。
よし、じゃあ決まりだな。
「えっと、四人で話すならカウンターじゃ手狭だよな? あーでも、テーブル席はどこも埋まってるな。どうしようか?」
「おい、テッド」
「おぉ、ちょっと待っててな」
アストンがテッドの肩を手で軽く叩くと、壁際のテーブル席へと近づいていき、そこに居た食事中の三人の男性客に身ぶり手振りを交えて、時折こちらを指差して何事かを話し掛けると、その人たちは半分ほど残っていた料理を皿ごと食べるような勢いで一気に口に掻き込み、あっという間に食べ終わるとさっさと立ち上がって店を出ていった。
その際に、何故だか俺の方を見て「落ち込むなよ」とか「元気出せよ」とか「頑張れよ」とか励ましの言葉を掛けていったんだが、いや、なんのこっちゃ。