酒場
「というわけでやってきました。酒場」
「それ好きだよね、アスマ」
うん、好き。
あの後、ミリオの部屋を訪ね、少し話があるから酒でも飲みに行かないか?と誘ったところ、「別にいいよ」と二つ返事をもらえたので、早速野郎二人で西の門近くにある酒場へとやってきていた。通りにいるというのに、中からは活気溢れる喧騒が聞こえてくる。
クレアには男同士で大事な話があるからということで、断りを入れて留守番を頼んでおいた。
というかまぁ、付いてこられると肝心な話ができないので、了承を得られてよかった。
ただ、女の子一人で留守番というのもそれはそれで危険というか無用心なので、酒を飲んで手早く話を済ませたらさっさと帰るつもりだ。
ということで、早速店の中へと入ることにする。
扉を開くと、むわっとした熱気が体を包み込み、表に居た時よりもより一層雑多な大声が響いてきた。
中央付近では冒険者風の複数の男女が大きなテーブル一杯に酒と料理を並べ、馬鹿笑いをしながらそれを飲み食いし、壁際には四人掛けのテーブルがあり、そこではラフな格好をした人たちが夕食を取っているようだった。そして、カウンターでは一人、もしくは二人でやってきた人たちが酒とつまみを手元に置いて、周りの喧騒からは切り離されているかのように自分のペースでゆっくりとした時間を楽しんでいるようだった。
俺たちも二人だからカウンターに行くべきなのかと思い、人の合間を縫ってそちらへと進んでいく。
と、そこに辿り着いた時に見覚えのある顔を二つ発見した。
「あれ? あんたら、テッドとアストン? だったよな?」
「ん?」
「お?おぉ、アンタは……あれだ、一月ぐらい前に西門前であった冒険者の……アスマ? だっけ?」
「おう、久しぶり」
そこに居たのは、冒険者証を取得するための条件として西の森へと向かい、その帰りにすぐそこの西門で出会った門番の二人組だった。
「本当に久しぶりじゃねぇかよ。つか、正直ちょっと忘れかけてたぜ。なぁ、アストン」
それを聞いたアストンはうんうんと頷き、テッドの言葉に同意を示している。
「その二人アスマの知り合いなの?」
「んー。知り合いといえば知り合いだけど、顔見知り程度の関係というか、それぐらい?」
「また曖昧な関係だね、それ」
少し呆れたような乾いた笑いと共にそう言うミリオだが、実際本当に大した仲ではないからな。少し世話にはなったが、それぐらいの関係だ。
っと、そういえばあの時確か、礼はいつか差し入れをしてくれればいいとかどうとかって話をしていたような……。
「あ、そういや冒険者様よ、あの時にした差し入れどうこうって話忘れてないよな?」
あぁ、今思い出したところだよ。
というか、そこはしっかりと覚えてるんだな。まぁ、世話になったのは事実だし借りを返すのはやぶさかではないけど。