スライム
「ゲットだぜー。ふんふふ~ん」
アンネローゼは鼻唄まじりに槍の穂からスライムの核を抜き取ると、腰に吊るしてある革袋の中にしまい込んだ。
「なぁアンちゃん、スライムの核なんて持って帰ってどうすんの?」
「んー? これはねー、おこづかいになるんだよ」
「売るってことか?」
「知らないかな? スライムの核って潰してゲル状にしてから畑の土に混ぜると作物が良く育つようになるんだよ。だから雑貨屋かギルドに持っていくと買い取ってもらえるんだよ。まぁ、大した金額にはならないけどね」
「ほぉ。それはいいことを聞いたな」
経験値と金両方が一辺に手に入るとは一石二鳥じゃないか。
これがゲームなら経験値と金とドロップアイテムまで手に入って一石三鳥なんだけど、さすがに金そのものを落とすことはないか。
「それよりもアスマはちゃんと周囲の警戒をすること。さっきのだって注意してれば余裕を持って対処できてたはずだよ」
「お、おっす」
……もしかして、ミリオさんちょっと怒ってんのかな?
まぁ、散々注意してくれてたうえでの失敗だもんな、そりゃ怒りたくもなるって話しだよな。
本当に気をつけよう。
「この先がさっき言ってた水辺だよ。武器の準備はいいね。じゃあ、そこの茂みから何がいるか覗いてみようか」
「了解」
「りょーかい」
さて、もう油断はしないからな。
まずは武器。今日はリーチがある槍の方が安全に戦えるだろうと思って槍を持ってきた。
そして、周囲を見回す。異常なし。
頭上警戒。異常なし。
足音も聞こえないし、生き物の気配……は分からんけどよし。
じゃあ茂みからゆっくり顔を出してみよう。
おぉ。水辺って湖だったのか。
しかも、ここから見ても透き通ってるのが分かるくらいに水が綺麗だ。
あ、魚が泳いでる。……あれも魔物なのか? それともただの魚?
まぁいいか。とりあえずざっと見た感じでは何もいないような気が…いや、いた。スライムだ。
湖の縁ギリギリのところから触手のようなものを水の中に伸ばしている。水の補給でもしてるのか?
というか、スライムって触手なんてあったのか。いや核以外は水なんだし形状を変えられてもおかしくはないか。
「どう? 見つけられた?」
「一応。あそこに一体スライムがいる」
「うん。それとあっちとあっちにも一体ずついるよ」
え?……あっ本当だ。言われるまで気づかなかった。
さすがに本職は俺みたいな素人とは違うな。
「ちょうど一体ずつ分かれてて良かったね。それじゃあアスマ、やってみようか」
「おう」
ようやく初の実戦だ。
相手がほぼ動かないスライムってのが微妙なところだけど経験値いただきます。
あ、さっきのこともあるし一応対策とか聞いておくか。
「スライムを相手にする場合気をつけた方がいいところとかって、なんかある?」
「特にはないけど、しいて言うならあまり時間はかけずに倒した方がいいかもね」
「なんで?」
「スライムって危険を察知すると水がドロドロの粘液状に変化するんだけど、その粘液って一度まとわりつくと中々落ちないうえに、ちょっとずつ物を溶かす効果があるから武器や防具なんかに付いちゃうとちょっと厄介なことになるかもしれない」
「……その情報は最初に教えとこうぜ」
聞いといて良かったわ。
初戦闘でいきなり装備がおしゃかになるとか洒落になってないからな。
「いや、その状態になるまでに数分はかかるから滅多なことじゃそんなことにはならないよ」
「……や、まぁそれなら大丈夫かもだけどな」
知ってるやつにとっては些細な情報でも、俺みたいに生の魔物知識がゼロの人間からすればそれはかなり重要な情報なんだけどな。万が一知らずにその状態のスライムと戦うはめになったら間違いなく装備全損ものだぞ。
「まぁいいや。そんじゃあ時間をかけないように気をつけて行ってくるわ」
「気をつけてね」
「アー君、ふぁいとー!」
周囲を警戒しつつ、なるべく音を立てないようにスライムに近づく。
そして、槍が届く距離まで来たので、スライムの核目掛けて槍を突きだすと、ちょっとした抵抗を感じたが狙いたがわずスライムの核を貫くことに成功した。
おぉ! 当たった!
正直一、二回は外すかと思ってたけどまさかの一発成功だ。
何か嬉しいな。これまでの努力が報われたみたいで。
核を串刺しにされて絶命したのか、先ほどと同様にスライムの核を残して水が地面に溶け広がった。
初めて魔物を殺したわけだけど。
思ったよりは何も感じないな。
まぁ、スライムってなんか生き物っていう感じがしないというか、無機物っぽい印象だからか罪悪感があまりない。
これがゴブリンやコボルトならもっと生々しい肉の感触とかを感じて嫌な気持ちになるのかもしれないけど、それは追々慣れていくしかないだろう。
この世界で生きていくためには、それは必要なことなんだから。
初経験値