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気持ち

 増血薬の副作用か?

 いや、あれの効果はそんなに長いものではなかったはずだ。それに少し思考を巡らせてみて、頭が正常に働くようになっているという事実もそれを否定している。

 でも、じゃあこの熱さはいったいなんだ? この胸の高鳴りはいったいなんだ?

 その原因を探るために、覚えている限りで眠ってしまう前の出来事を振り返る。気恥ずかしさで更に胸にモヤモヤとしたものが生まれ頬が熱くなるが、自身の感情を深く掘り下げ、とことんまで追求していく。

 そして、とある一つの事実に辿り着いた。

 ……え? あー、そういうこと、なのか? いや、でもそれはいくらなんでもまずいというか、どうなんだそれは?

 でも、現在の自分の状況とそこに至る道筋を辿ってみるとそうだとしか思えない。

 たぶんだが、俺はクレアを好きになってしまったんだと、思う。もちろん以前から好きではあったが、今の気持ちはそれとはまた違った、男女の関係的な好きという気持ちであり、つまりはクレアに恋をしてしまったということだ。

 だが、優しくされて、弱い部分も認めてもらって、抱き締められて涙を流し、こうして微笑み掛けられて、それで好きになるなという方が無理があるだろう。

 自分でも自分のことを酷く単純だと思わなくもないが、この気持ちに嘘はない。気づいてしまえば、それはすっと胸に収まりそれが確かなものであるということが分かる。

 あー、まずいな。これはまずい。倫理的にもそうだが、クレアに対して今まで抱いていた好意的な気持ちが、全部恋愛感情的なそれに置き換わっていくのを感じて、それが溢れてしまいそうで非常にまずい。

 俺だって男だ。人並みに性欲はあるし、ベッドの上で二人きりというこの状況に変な想像をしてしまいそうになるのは仕方のないことだと思う。

 だが、もちろん一方的にそんなことをするつもりもないが、心が悶々とするのは止められそうもない。

 だから、頭をクレアの膝の上から浮かし、体を僅かに動かすと、腕に力を込めて上半身を起き上がらせる。


 「よっ、と」


 急に俺が起き上がったことに驚いた表情を浮かべるクレアだが、すぐにその表情は心配そうなものに変わりこちらに問い掛けるような視線を向けてくる。

 なので、《思念会話》を繋ぎ言葉を交わせるようにし、身振り手振りも加えて大丈夫なのを伝える。


 「体は痛くないし、頭もふらつかない。うん、もう大丈夫そうだ。ありがとうなクレア、おかげで助かったよ」


 自身の昂りが伝わってしまわないように、努めていつも通りの自分を演じる。


 『えへへ、良かった元気になって。でも、急に起きたら体がフラフラして危ないから気をつけないと駄目だよ?』

 「あー、そうなんだけど、さっきまですごい情けないところを見せちゃってたから、ちょっと恥ずかしくてさ」


 誤魔化すようにそう言うと、クレアは柔らかな微笑みを浮かべて俺の手を取る。


 『いいんだよ、情けなくても。私は嬉しかったよ、アスマ君がそういうところを見せてくれて。だからね、もう私の前では変に強がったりしないで、そのままのアスマ君でいてくれていいんだよ』

 『……好きだ』

 『え?』


 うおっ!思念に乗って心の声が漏れてしまった。って、こんなことしてたら本当にまずいから。我慢利かなくなるから。


 「いや、ははっ。あー、なんだ、そういえば腹へったなー。外も暗くなってきてるし、そろそろ夕飯の時間かな? じゃあ今日は俺も手伝うから飯の準備でもしようか」

 『え、あ、うん』

 「よっし! 行くぞー」


 口早にそう言い、軽快にベッドから降りて部屋の入り口に向かう。

 まずは一度気持ちを落ち着けることが何よりも大事なことだ。なので、クレアを引き連れて部屋を出て、時間を置くことでこの昂りを鎮めることにしよう。じゃないと、気持ちが暴走してしまいそうで本当にまずいからな。

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