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 「……っ……く……」


 堪えきれずに嗚咽を漏らし、熱くなる瞳の奥から溢れてくる涙がクレアの胸元を濡らしていく。

 昨日、ウルフとの戦闘を終え街に戻ってきた時にも思わず涙を流してしまったが、あの時はすぐさま誤魔化すようにしてなんでもない風を装うことができた。

 だが今は、僅かながらに持ち合わせていた自尊心で、情けない部分を見せないようにと見栄を張り強がっていた心を、クレアの陽だまりのような優しさで解きほぐされたことにより、際限なく溢れ続けてしまっている。


 『今までずっと一人で頑張って偉かったね。でも、これからはずっと私がついてるからね』


 頭上から甘く囁き掛けられる声に心底からの安心を覚え、痛み続ける体を動かしクレアの腰に抱きつく。

 大の男が年端もいかぬ少女に慰められているという光景は、傍目から見れば相当に情けないものに映るだろう。

 だが、この世界へ来てから意識的にも無意識的にも、どこか気を張り続けていたところがあった俺にとって、心の底から甘えられる人間というのは今までいなかった。そこへこうして自分を理解してくれる者によって手が差し伸べられたのなら、恥や外聞など気にしていられるわけもない。

 今は、これまで溜め込んでいたものを全て吐き出し、気が済むまでこの優しさに溺れてしまおう。

 もう一度立ちあがり、これから待ち受ける困難に屈してしまわないように。成長の糧とするために。





 それからしばらく泣き続けた後、いつの間にか疲れて眠ってしまっていたようで、目を開くと辺りが薄暗くなっていた。

 起きてすぐに気がついたのは、体を苛み続けていた痛みが消えていたことだった。

 どうやらシャーロットの言っていた通り、数時間の後に肉体が変化に馴染んだようだ。

 そして、次に気づいたのは頭の下に、妙に温かく柔らかい感触があるということだった。

 手探りでそれに触れると、それは跳ねるように頭の下で動き、その衝撃で寝惚けた頭が少し覚めた。

 そうしてその感触がなんなのかに思い至り、頭を捻り真上を見上げると、そこにはくすぐったそうな笑顔を浮かべたクレアがいた。

 どうやらいつの間にか眠っていた俺は、クレアに膝枕をされていたようだった。

 目が合うと、クレアはこちらに微笑み、口の動きだけでおはようと伝えてきたので、俺も「お、おはよう」と返す。

 ……何故だろうか、クレアを見ていると妙に心臓が高鳴り、顔が熱くなるのを感じた。

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