果物
「あー、あのさミリオさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「ん? どうしたの?」
ポーチから増血薬を取り出して、ミリオへそれを見せるように前に出す。
「いやさ、昨日のあれで貧血気味だからってことで増血薬を買ってきたんだけど、これってすっごいまずいだろ? だから口直しに果物でも買ってこようと思ってたんだけど忘れちゃっててさ、何か持ってないかなーって」
さすがにあのえぐみを水だけで誤魔化すには無理がある。最悪味の濃いものならなんだっていいんだけど、何か恵んでくれないかな?
「あぁ、酷い味らしいねそれ。でもごめん、僕は持ってないな。あ、クレアのおやつ用の干した果実ならあるけどそれでもいい?」
「え? あー、たまに食べてるあれか。それでもいいけど、勝手に食べたらまずいんじゃないのか?」
食べ物の恨みってやつは怖いからな。クレアは食い意地の張ったタイプではないと思うけど、嗜好品の類は自分が好きで持っているものだから、勝手に食べて嫌われたりはしたくないんだけど。
「アスマなら大丈夫だと思うけど、そう言うならちょっと聞いてくるよ。待ってて」
「おぉ、悪いな」
本来ならこういう場合は自分で断りを入れるのが筋だとは思うが、今朝から微妙に避けられている身としてはまだどうやってその状況を打破するか決めあぐねているところだ。
以前と違い、何かの拍子で怒らさせてしまったということもないので、この距離感を詰めるための行動は、また時間のある時にでも実行すれば大丈夫だと思う。
と、自分の中で考えをまとめていると、クレアへと了承をもらいに行ってくれたミリオが戻ってきた。
「お待たせ、食べてもいいってさ」
お待たせと言われても全然待ってはいないが、ミリオのそういう律儀な部分は素直に好感が持てるところだ。
「そっか。また後でクレアに礼を言っとかないとな。ミリオも聞いてきてくれてありがとな」
「いいよ、別に」
さて、それじゃあ少しだけいただくとしようかな。
えっと、確か食器を置いてある棚の引き出しの中にあったと思うけど、と、あったあった。
コルクで蓋をされた瓶の中に数種類の乾燥した果物を発見したので、それをいくつか皿に移し、水差しからコップに水を注ぐ。
「それじゃあ今度こそ本当に部屋にこもらせてもらうから、また夜にな」
「うん、またね」
なんだか別れの挨拶みたいになってしまったが、同じ屋根の下に居ることに変わりはないんだけどな。
そういえば、増血薬の副作用って男相手にも効果があるんだろうか?
……いや、これ以上考えるのは止めておこう。要は効果が切れるまで誰にも会わなければいいんだからな。うん。