苦痛
「ただいま」
扉を開き、帰宅の挨拶と共に家の中に足を踏み入れる。
急いで帰ってきたこともあり、なんとか痛みが表に出てくる前に家へと辿り着くことができたのは幸いだ。
「おかえりアスマ。早かったね」
俺の声を聞きつけてか、自分の部屋から出てきたミリオが出迎えに来てくれた。
いつもは何かと用事で家を空けていることが多いミリオだが、今日は特に予定がないのか家に居たようだ。
「あぁ、ちょっと色々あってさっさと帰ってきたからな。と、そうだ、これ頼まれてた回復薬な」
腰のポーチから二本の回復薬を取り出して、それをミリオ手渡す。
「うん、ありがとう。それで色々って何があったの?」
「いや、俺って魔力操作苦手だろ? だから、それが得意なシャーロットのところに行った時に魔力操作のコツでも教えてもらおうと思ってその話を切り出したらさ、何か魔力操作技術を引き上げる秘伝の技を施してくれるっていうからやってもらったんだよ」
「え、あれをやったの? その、体は大丈夫なの?」
ミリオが少し驚いたような表情でこちらの体に上から下まで視線を走らせて心配してくる。
ミリオのこの反応を見るに、クレアがあの技を施してもらった時もやっぱり痛みに対して苦しんでいたんだろうことが察せられる。
「今はスキルの効果で痛みが消えてるから大丈夫だよ。でも、いつまでそれが持つか分からないからってことで、用が済んですぐに走って帰ってきたってわけだ」
「あぁ、そうなんだね。前にクレアがあれを受けた時は相当辛そうにしていたから、アスマは平気だったのかと思ってびっくりしたよ」
「んなわけないだろ。意識が飛びそうになったぐらいに瞬間的な痛みはかなりのもんだったからな、なんせこのスキルが発動するぐらいだし。で、シャーロットから数時間で痛みはなくなるって聞いたんだけど、クレアの時はどうだった?」
「ん、確かにそれぐらいだったと思うよ。昼間にあれを受けて、日が沈む頃にはなんでもなさそうにしていたしね」
ということは俺も夜まではその痛みと向き合わないといけないってわけか。嫌だな。
「そっか。じゃあ悪いんだけど、それぐらいの時間まで部屋にこもらせてもらうことにするわ。あんまり悶えてるところ見られるのも恥ずかしいし」
「うん、分かったよ。頑張ってね」
「おう」
さて、それじゃあ引きこもるとしようかね。
と、そうだ。どうせ部屋から出ないんだったらついでに今増血薬も飲んでおこうかな。それなら副作用に困らされることも……あ。口直し用の果物買ってくるの忘れてた。