秘伝
「ふっ、そうだな。まぁ言ってしまえば強制的に魔力操作の体験をさせてやることでそのコツを体に覚えさせてやろうとしているわけだ」
「強制的に? なんだそれ、どうやって?」
強制的っていう言葉に何か引っ掛かるものを感じるけど、それで魔力操作が上達するならば是非ともやって戴きたい。
そう思っていると、シャーロットが両手をこちらへと向け差し出してくる。
「この手を取るのだ、それだけで良い。体の力を抜いて我に身を委ねるのだ」
言われた通りに目の前で広げられた両の手に自身の手を重ね、体を脱力させる。
それを見てシャーロットは満足そうに一度頷き「あぁ、それと」と、付け加えるように話し掛けてくる。
「舌を噛んでしまわぬように歯を食いしばっておけ。それと、気をしっかりと持つのだぞ」
疑問を覚えるよりも先に体がその指示に従って動き、歯を噛み合わせ、視線で問い掛けるようにシャーロットを見やる。
と、次の瞬間、火花が散った時のような乾いた音と同時に、視界に何やら光の粒子が見え、そして――
「っ!? が、ぁああああっ!?」
耐え難い痛みが体を襲い、まるで電撃を流し込まれたように体中の細胞が悲鳴を上げ、肉体が痙攣を起こし、歯の隙間から声にならない獣の唸り声のようなものが漏れ出す。
まるで体を内側から掻き回されているかのような不快感と、圧倒的な痛みに、喉が詰まり呼吸ができない。
その現実を拒絶するように視界が黒く染まり、体が崩れ落ちそうになり徐々に意識が遠ざかる、が。
『パッシブスキル《限界突破》発動』
その寸前で《限界突破》が発動し、痛覚が無効化されたことにより痛みが吹き飛び、喘ぐように酸素を体に取り込み、なんとか意識を繋ぎ止めることに成功する。
「がはっ、ごほ、ごほっ!」
急に大量の空気を肺に送り込んだせいで盛大にむせてしまうが、それで完全に意識を取り戻す。
元に戻った視界でシャーロットを見ると、真剣な表情で観察するように真っ直ぐこちらに視線を向けていた。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
「ふむ。どうやらスキルによって痛みは引いたようだな」
「……あぁ、おかげさまで、な」
真顔のままシャーロットはこちらの様子を窺い、事実の確認をしてくる。
「ならば丁度良い。今、貴様自身の内部で循環させている魔力の流れをしっかりと感じておけ。その流れが無駄のない魔力運用の第一歩だ」
「お、おす」
意識して魔力の流れを追ってみると、確かに一切体から魔力が漏れ出すこともなく体中を駆け巡っている。
痛みはなくなっても、体の不快感と肉体の痙攣は未だに存在しているが、それでも先程までに比べると断然に良い。
でも、こんな瞬間的にスキルが発動するほどの痛みを与えられたのは初めてかもしれないな。そういう意味ではシャーロット先生はかなりのスパルタなのかもしれない。いや、そんな言葉では足りないな、だってゲインさんの鍛練では《限界突破》は発動したことがないからな。
というかこの子、これをクレアにも味わわせたというのか。なんという鬼畜の所業だ。その様を想像しただけで涙が出てきそうになる。