部屋
秘伝とな?
それはあれだな、何か心躍る単語だな。一子相伝とかもそうだけど、言葉自体から力を感じるよな。
「ちなみに、クレアちゃんにもこの手法を用いて技術の向上を促したのだ」
「おぉ! それは期待できるな。ということは、その秘伝の技で俺もクレアみたいな魔力操作技術を身につけられるのか?」
もしそうなんだとすれば、一気に何段階も技術が飛躍することになる。もしかしたら魔刃を使えるようになったり?……いや、そんな上手い話があるのか?
「それはないな。あの子は元からその素養があったから飛躍的に技術が向上したが、貴様からはそれほどの素養を感じないからな。良くて一般的な魔力操作ができるようになる程度だろう」
「あ、はい」
まぁな、そうだよな。そんな誰もが一足飛びで技術の向上が図れるならこの世界の住人の大半が魔刃を使っていてもおかしくないもんな。うん、分かってた。
「では、奥の部屋へと行くとしようか。ライカ!」
場所を変える提案をしたシャーロットが階上へ声を掛けると、二階にある手摺りの隙間からライカが顔を覗かせた。
「なんだい?」
「少しの間店番を頼む。客が来たら呼びに来てくれ」
「はいはい。分かったよ」
「では、こっちだ」
前を歩くシャーロットの後ろを付いて、カウンターの奥にあった通路を進んでいく。
「店、大丈夫か? 俺が言うのもなんだけど、客を待たせることになっちゃわないか?」
「構わんよ。本当に薬が必要なら多少の時間ぐらい待っているだろう。その程度のことで帰るのなら、用件もその程度だということだ」
「はぁ、そういうもんか?」
店主がそう言うのなら構わないのかもしれないが、俺のために人を待たせることになるのはちょっと申し訳ないんだけどな。
「この部屋だ」
着いたのは頑丈そうな扉が嵌め込まれた部屋だった。
それをシャーロットが押し開き中へ入ると、そこは薄暗くて何もない、窓すらもない一面が石材でできた、というよりも部屋自体がまるで石材をくり貫いて加工されたかのような造りをしていた。
「《トーチライト》」
シャーロットが上方へ向け何かの魔術を放つと、それは天井に貼り付くようにその場へ留まり、部屋の中を柔らかな光で照らしてくれた。
「見事に何もない部屋だな。ここはなんの部屋なんだ?」
「ここは我が新薬を開発する時に使う部屋だ」
「ほう。でもそれにしては道具とか何も置いてないけど」
道具どころか何もないけどな。
「道具を置いておくと粉々に砕け散ってしまうからな」
「え?」
あー、もしかして劇薬的なものを調合したりとか、そういうことをする部屋なのかな? そう言われて見れば、ところどころに焦げ跡みたいなものが付いてるし。
「ここならば多少のことが起きても周りの迷惑になることはない。防音性も抜群だから音が漏れることもないしな」
「へぇ、そうなんだ。……あのさ、今から何やるか聞いてもいいか?」
それを聞いたシャーロットは目を細め、どこか意味深長な笑みを浮かべる。
いや、怖いな。こんな部屋に連れ込まれるってことは、そういうことなんだろうが、いったい何されるんだろ?