魔力
そう言って、シャーロットは体の力を抜くように深呼吸を一度行うと、自然体でその場に立ち、集中力を高めるためなのか目蓋を閉じる。
そして、閉じられた目蓋が薄く持ち上げられると、先程までとは別人のような雰囲気を纏ったシャーロットがそこには居た。
「!?」
それと共に、シャーロットの身から膨大な魔力の高まりが感じられる。だがそこからは一切の荒ぶりは感じられず、ただただ静かに魔力の密度のみが加速度的に増していっている。
あまりの魔力濃度に、まるで目の前にいるシャーロットという存在が魔力で構成されているかのような錯覚を起こしてしまいそうになる。
そして、シャーロットは掌を上に向け、おもむろにその腕を持ち上げると、魔力がその一点に集束され、次の瞬間、そこに魔力の球体が出現した。
「……は?」
思わず気の抜けた声が漏れてしまうが、それも仕方がないことだろう。
何故なら今俺の目の前で起こっているのはあり得ない光景だからだ。
そもそも魔力というものは、空気中の魔素と言われる物質が肉体に取り込まれることで変化したものであり、それを《意味のある言葉》に乗せ魔術という形に出力することで、初めて現実に影響を及ぼすことができる力である。
俺自身も体感して理解したことだが、魔力というものはそのままでは何の強制力もなく、上手くコントロールできずに体から漏れ出してしまえば、その時点で周囲の魔素に解けて消える程度の儚い力だ。
だが、そのはずなのに、シャーロットはその法則を無視するように、世界の理を塗り替えるかのように、この場に魔力を魔力のまま球状にして存在させている。
「え? いや、ちょっと待った。何それ? 何やってんの?」
「ん? 集束した魔力をこうして出現させただけだが?」
違う、そうじゃない。そんなものは見れば分かる。聞きたいのはなんでそんなことができているのかってことだ。
いや、何か微妙にドヤ顔してるからわざと言ってるのか? ちょっと面倒臭いな。
「そうじゃなくて、魔力を魔力として出現させてること自体が意味不明なんだけど。なんでそんなことできてるの?」
「ふっ、言っただろう? 魔力操作の真髄を見せてやると。これがその一端だ」
……いや、だからそうじゃなくてさ。
正直、本気で訳が分からない状況ではあるけど、魔力操作を極めた先にある光景がこれだということなのだろう。
どういう風にすればそんなことができるのかは不明だが、こんなことが出来るということを知れただけでも収穫はあった。自分だけで鍛練していたらまず間違いなく知れなかったことだ。
やっぱりシャーロットに師事することは間違ってなかったようだ。……他人にものを教えるのは絶望的に下手そうだけどな。