動機
「なるほど。そういう意味か」
「うん。で、どうかな?別に仕事の邪魔をするつもりはないから、技術を向上させるためのコツというか、効率の良い鍛練方法を教えてくれればそれでいいんだけど」
ゲインさんはそういう立場の人だったからそれに甘えて直接指導を受けていたが、シャーロットは違う。俺はただの客の一人であり、そこまで肩入れするほどの仲でもない。
だから、直接その手を煩わせてまで教えを請うのも悪いので、どうやってそこまでの魔力操作技術を身につけたのかを教えてもらえればそれだけでも参考にはなる。
「ふむ。まず一つ聞きたいのだが、貴様が他人に教えを請うてまで早急に力を求める理由はなんだ? 冒険者として最低限活躍できるだけの実力はもう既に手にしているのだろう?」
そう質問してきたシャーロットの視線は真剣味を帯びていて、まるでこちらの反応を試しているかのような、そんな雰囲気が感じられた。
「まぁ、確かにそうなんだけどな。……でも、それじゃ駄目なんだよ。最低限じゃ足りないんだ」
だから、俺もそれにできる限りで真剣に応える。
「初めはさ、一人で生きていくための強さと、金を稼ぐ手段を手に入れられればそれで良かったんだ。でも、今はそうじゃない」
過去を振り返り、あの頃と今の自分の心の変遷を辿っていく。
「ここで生活していくうちに、俺にとって何よりも大切な、守りたいって思う人たちに出会えたんだ。最初は世話になった義理を返し終えるまでの関係で、すぐに離れていくつもりだったんだけど、一緒に居るうちに、まぁ色々あって、どんどん俺の中でその人たちに対する気持ちが強くなって、ずっと一緒に居たいって思うようになって、心地の良いその関係をなくしたくないって思ったんだ」
ミリオにクレア。あの二人に出会えたことは、奇跡だ。その奇跡を俺はいつまでも、大事にこの手の中に納めておきたい。それが、俺の心の原動力であり、全てにおいて優先したい絶対の理だ。
「……でも、昨日のことだ。俺が弱いせいで、俺の力が足りないせいで、もう少しでそれを失ってしまうところだった。怖かったよ。自分の命が尽きることよりも、それをなくしてしまうことが、何よりも怖かった」
生き甲斐などなくても人は生きていける。だが、それがない人生になんの価値があるというのか、ただ呼吸をし、ただ食糧を貪り、糞尿を垂れ流し、生命活動の維持をして、世界の歯車にすらなることができず、ただただそこに存在する。そんな実りのない生になんの価値があるというのか、そんなものは生きているとは言わない。世界のリソースをいたずらに食い潰す、存在そのものが罪の害悪だ。肉体が活動を止めなくても、精神がその意味を失ってしまえば、それはもう死んでいるも同義だ。
「だから俺は、それをなくさないために、最後まで守り抜くために、強くなりたい。そのための手段の一つとして魔術を扱えるようになりたいんだ」