魔力操作
「ど、どうしたのだ? そのように邪な笑みを浮かべて」
そんなことを考えていると、シャーロットが不気味なものを見るような目でこちらを見やり、そう言ってきた。
そこに若干引き気味な雰囲気を感じ取ったので、慌てて表情筋に力を込めてそれを改める。
「いやごめん、なんでもないよ。あー、そうだ。この増血薬ってまだ在庫ある? あるのなら予備として二、三本常備しておきたいんだけど」
言い訳をするように再び増血薬の話に戻る。
が、俺の言葉を受けたシャーロットはそれに対して否定の意を示すように、左右に首を振る。
「在庫ならあるが、この薬は繊細な代物でな、空気に触れたり一定以上の温度の変化で薬効が劣化してしまうから常備薬には向かんのだよ」
「そうなのか? じゃあ、これも今すぐ飲んだ方がいい?」
「いや、そこまで短時間で劣化することはないから安心せよ。ここで服用されて変な気でも起こされたら堪ったものではないしな」
ごもっともです。俺もあのような無様を晒すのは遠慮したいところですからね。
「それで? 用件はこれで終わりか?」
「あー、いや、あと一つだけある。というかある意味ではこっちが本題というか」
魔力を用いての会話ができるほどに、優れた魔力操作を身につけているシャーロットにだからこそ頼みたいことがある。
「ふむ? 言ってみるがよい」
「あのさ、俺に本当の魔術ってものを教えてくれないか?」
「本当の魔術?」
「あぁ。俺ってさ、どうにも魔力操作が下手でいつまで経っても上達しないんだよ。そのせいで魔術自体は扱うことができてもまるでその真価を発揮させることができないんだ」
ゲインさんの下で鍛練を積んでいる時に教わったのは魔力操作の基礎と、初歩的な魔術だけだ。
あの人のおかげで最低限の魔力操作は身につけることができたが、彼も魔術の専門家というわけではないのでそれ以上のことは何も教わってはいない。
それからは基本的に鍛練の合間や、家に帰ってから一人の時間に、体の内側で魔力操作を行いその上達に励んでいたのだが、それもここ最近はまるで進歩しているようには思えない。
周りの人間に聞いてみても、魔力操作は時間を掛けて技術を身につけていくしかないと言われたが、それにしても上達の兆しすら見られないというのはおかしな話だ。
となると、考えられるのは二つ。根本的に俺の鍛練方法が間違っているか、ここが個人で俺が辿り着ける成長限界なのか、というところだ。
そんな中で知ったのがシャーロットの魔力操作技術であり、これだけ魔力操作に長けているシャーロットならば、俺のこの閉塞した状況を変える何かを示してくれるんじゃないかと思ったわけだ。