増血薬
「ついじゃないよ。大体お前はね」
その微笑ましい光景を眺めていると、本格的にライカによる説教が始まりそうな予感がしたので、助け舟を出す形で会話に割って入る。
「あのさ、取り込み中に悪いんだけど、こっちの用件を先に話してもいいか?」
第三者の客という立場を利用して、ライカの言葉を遮って会話に横入りすると、シャーロットは輝くような瞳をこちらへ向け、ライカもどちらを優先するべきかを悟った、というか空気を読んでくれたのか、そこで言葉を収め、ため息を一つ吐くと「また後でね」という台詞を残して二階へと続く階段を上がっていった。
これじゃどっちが主人か分かったもんじゃないな。明らかにライカが世話を焼いてる側にしか見えないんだけど。
「ありがとうございます、お兄さん。助かりました」
「いや、別にいいよ。それよりもいくつか買いたいものがあって来たんだけど、いいか?」
「あ、はい。……じゃなくて。うむ、よかろうとも」
言葉遣いが元に戻った。
さっきまでの方が見た目に相応で可愛いらしいと思うんだけど、何かもったいないな。
「して、貴様は我に何を求める?」
「えっと、回復薬が三本。それと、血を増やす薬って置いてある?」
「うむ、増血薬ならあるが、何故そのようなものを必要としているのだ?」
「あー、昨日ちょっと色々あって血を流し過ぎたせいで少し頭がふらつくもんで」
睡眠と食事をしっかり取ったから、昨日に比べれば体調はかなり良くなっているが、それでもまだ万全とは言い難い。
多少の頭痛と目眩があり、体温が低いように感じられる。この場所は何故か冷気のようなもので満たされているので、尚のことそれを実感させられる。
「ふむ。であれば処方するのもやぶさか?ではない。しばし待つがよい」
そう言ってシャーロットは幾つもある薬棚から赤い液体の入った小瓶を三本と、赤黒い液体の入った小瓶を一本、木製の盆に乗せて持ってきた。
盆の上に回復薬三本分の代金と、増血薬の代金を乗せ、代わりにそれらを受け取る。
……前に飲んだ時はあまりじっくり見ていなかったけど、増血薬ってこんなにおどろおどろしい色をしてたんだな。正直、あの味を思い出すだけで体が拒絶反応を示しているんだが、飲まないという選択肢はない。とはいえ、何の対策もないまま飲むのは危険なので、帰りにあの酷い味を相殺できるような何かを買って帰るとしよう。
「あぁ、分かっているとは思うが、増血薬の副作用には気をつけるのだぞ?」
「え?」
……副作用ってなんですか?