ライカ
扉を開くと、中から鼻をつく刺激臭を伴った冷気が漂ってくる。
ここへ来るのはこれで四度目だが、これだけはいつまでも慣れそうにない。
中に入って少しすれば嗅覚も麻痺してくるんだけど、それまでは毎回こんな感じだ。
一度目にここを訪れたのは、回復薬と毒薬を求めてやってきた時。二度目はクレアと仲直りするための秘策を授けてもらいに来た時。少し間は空いてしまったが、二週間ほど前にその時の礼をしに来たのが三度目だ。
三度目にここへ来た時には、お礼の品として持参した茶菓子を食べながら少しの間話をしたのだが、その時にシャーロットとミリオやクレアが実は知り合いだったということを初めて知った。
というか、クレアに魔力を用いての会話という可能性について示したのがシャーロットなのだという話だ。
ちなみに、シャーロット先生は魔力会話を普通にできました。
うん、その時に思ったよね。もしかしてこの子、本当に魔術師としてかなり優秀なんじゃないかって。
後でクレアにも確認を取ったが、それは真実であり、どうやらシャーロットはあの子にとって道を示してくれた恩人であり、大事なお友達なのだそうだ。
以前からそうだと知っていれば、それ相応の態度で接したものを。
まぁ、俺にとってもクレアにとっても、シャーロットが恩人であるということには変わりはない。
ということで、これからは少し対応を改めることにしようと思う。頼みごとのこともあるけど、それ以上に尊敬できる部分も多々にあるので敬意を払うのは当然だ。
「ごめんください!」
これも毎度のことだが、基本的にシャーロットは二階で作業をしているらしく、一階には棚を整理する時ぐらいしかいないので、用事がある時はこうして二階へ届く声量で呼び掛けないと出てきてくれない。
勝手に個人の部屋に押し入るわけにもいかないので、シャーロットが出てくるまで周囲を見回していると、二階へと続く階段から彼女の使い魔であるライカが姿を現した。
「よぉ、ライカ。久しぶり、元気そうだな」
「あぁ、お前もね」
ライカは俺の足元まで近寄り、何故か匂いを嗅ぐと、再び口を開いた。
「シャロからの伝言だよ。今ちょっと取り込み中だから少し下りてくるまで時間が掛かるってさ」
「あぁ、そうなんだ。分かった。じゃあ、前来た時みたいにそこの椅子借りててもいいか?」
カウンターの横にある丸テーブルと三脚の椅子を指し示してライカに尋ねると、「いいよ」と了承の言葉を得たので、椅子に腰を下ろして待たせてもらうことにする。
ライカと初めて会ったのは三度目の訪問時。その時も上階にいるシャーロットに呼び掛けて少しした頃に、階段を下りてきたこの使い魔に声を掛けられた。
当初は誰に声を掛けられたのか分からずに、何度も辺りを見回して声の発生源を探したものだ。
それがどう見ても猫にしか見えないこいつから発せられているのが分かった時は、正直心霊の類に目をつけられたのかと思って背筋がぞくぞくして変な汗が止まらなかったけど、よくよく話を聞いてみるとシャーロットの使い魔だというだったので、そういえば使い魔がいるという話を思いだし、なんとか自分を納得させることができた。
まぁ、オークの上位種とかも喋ってたし、別に知性を持った猫が居てもおかしくはないだろうという風に。
その時に色々と話をした結果として、それなりに仲良くはなれた。と、思う。
見た目が猫なので表情も読めないし、声も平坦で抑揚がないからそこから感情を読み取ることはできないけど、嫌われてはいないはずだ。