補修
というわけで、いつもの鍛冶屋にやってきた。
「おっす」
カウンターでは、これもまたいつも通りにアンドレイが装備品を磨いている。
「おう。今日はどしたい?」
「あのさ、これなんだけど修復できるかな?」
挨拶もそこそこに、引っ提げてきた足、腕、体の防具をカウンターの上に並べていく。
「あん?」
アンドレイはそれを手に取りしげしげと眺め、穴の大きさを親指と人差し指の間隔で計ると、指先で顎髭をしごきながらこちらを見る。
「ま、これぐらいなら直せないこともないな。穴んとこに弾力材流し込んでなめした皮で覆ってやりゃあ十分使い物になんだろうよ」
「お、本当か。そりゃ良かった」
この防具とも半年以上の付き合いになるから割と愛着が湧いている。なので、使い続けられるというのならば嬉しい話だ。
「にしても、相変わらず無茶なことしてんだな、あんた。どうやったらこんな穴ぼこだらけになんだよ」
「あー、ちょっと色々あってな」
という前置きをして、昨日の出来事の要所だけを軽く聞かせると、アンドレイはなんとも言い難い複雑な表情でこちらを見てきた。
「そいつは、あれだな。災難だったな」
「あぁ。本気でぎりぎりだったからな」
追い込まれればその分だけ《起死回生》の効果で自己強化するとは言っても、格上の相手を圧倒できるわけでもないし、あれが発動する頃には俺自身も結構なダメージを負っているわけで、戦闘継続時間に制限が掛かってしまう。
それに、ブラッドウルフの血槍のように防具や《赤殻》を貫いてくる攻撃で、頭や心臓を一突きされてしまえばその時点で終わりだ。スキルが発動することもなく即死させられてしまうだろう。
それを考えれば勝てたというだけでも僥倖というものだ。一歩間違えれば死んでいたわけだしな。
「まぁそんな訳で、これからその時に使った分の回復薬とか買いに行かないといけないから、そろそろ行くわ」
「おう。二日後には仕上げられると思うから、またそん時に来てくれや」
「あぁ、よろしく。んじゃ、またな」
手を上げ、アンドレイに別れの挨拶を告げて、鍛冶屋を後にする。
そして次にやってきたのは禍々しさを放つ奇妙な店、〈☆世界最強の魔術師シャーロットちゃんの魔法薬販売店☆〉だ。
相変わらず店構えが色々とやばいな。直視してたら体調に異常をきたしそうだ。何か人形のポーズが無駄にカッコいいものに変わってるし。
前衛的過ぎてさすがにこのセンスには付いていけないわ。
人の価値観についてとやかく言えるほど、俺も大した美的感覚を持っているわけではないが、いくらなんでもこれはないよ。
まぁ、いいや。それじゃあ気を取り直して入店するとしようか。