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お金

 その後、朝食の席でも、いつもと違い落ち着きのないクレアに違和感を覚えたが、何を聞いたところで『大丈夫』の一点張りなので、それ以上は追及することはしなかった。

 でも、何か微妙に避けられてるような気がして寂しい。昨日寝る前はそんなことなかったと思うんだけど、寝てる間に何かしちゃったか? けど、嫌われてるような感じではないんだよな。うーん、分からんな。

 


 「アスマ、出掛けるの?」


 朝昼兼用の食事も終わり、一息ついたところで、所用を済ませるために街へ繰り出そうとした時、ミリオから声が掛かる。


 「あぁ、防具の補修と、後回復薬を買いにな」


 何か少し前にも同じような感じで鍛冶屋と薬屋を梯子したような気もするが、前回と今回では目的が微妙に違う。

 鍛冶屋へは今日は防具の補修に行くだけだ。

 最初は槍も持っていくつもりだったんだけど、ブラッドウルフのあの頑強な血盾を貫いたにもかかわらず、穂先に刃こぼれはなく切っ先は鋭いままだったのでその必要はなさそうだった。

 以前持っていった時によっぽど丁寧に研磨でもしてくれたんだろうか? まぁ、なんにしてもありがたい話だ。

 薬屋へは回復薬を売ってもらうのと、もう一つ、シャーロット先生に頼みごとがあってその願いを聞いてもらいに行くつもりだ。

 聞いてもらえるかは分からないが、聞く前から諦めるのは主義じゃないので、とりあえず話だけでもしてみようと思う。


 「じゃあ、はいこれ」


 何気ない仕草で、ミリオが手渡してきたのは小さな革袋だ。中を覗いてみると、そこには結構な額の金が入っていた。


 「さっきブラッドウルフの素材を換金してきたから、昨日言った通り、それを防具の補修代に充てなよ」

 「……あー、その話は聞いてるからいいんだけど。これ、多すぎないか? え? ブラッドウルフ一体倒しただけでこんなに金貰えるの?」


 これだけあれば防具の補修どころか、余裕で新しい防具を買い揃えられるうえに回復薬まで買えそうなんだけど。


 「いや、さすがにそれはないよ。そこには昨日使った回復薬三本分の代金も入れてあるから、それで買ってきてもらおうと思って」

 「な、なんだそういうことか。びっくりした」


 いくらあの魔物がかなりの強敵だったと言っても、それは下級冒険者から見ればという話であって、中級以上の冒険者からすればそれほど脅威を感じる相手ということもないはずだ。

 それを一体倒した程度でこれだけの額が手に入るのであれば、誰も苦労はしないよなって話だ。


 「でも、回復薬代って、あれは俺が使ったんだから金も俺が出すべきだろ。払ってもらうわけにはいかないって」

 「いや、これも昨日言ったと思うけど、あの戦いでは前衛をアスマ一人に押しつけちゃったからこそ、僕とクレアは怪我を負うこともなく無事でいられたんだ。それがなければどこかで必ず僕らも回復薬を使っていたはずだから、別に僕がお金を出すことはおかしいことじゃないよ」

 「いや、それは」


 そう言われればそうなのかもしれないが、それはあくまで可能性の話だ。

 悪いところを挙げればきりがないが、あの怪我の大体は俺の慢心が招いた結果なので、その厚意を素直に受け取るのは心苦しい。


 「……分かった、じゃあこうしよう。アスマには自分の分の回復薬代を払ってもらうことにして、僕が自分の分と、クレアの分の回復薬代を出す。それで、ブラッドウルフの素材を換金した代金から防具の補修代を引いて、余ったお金を僕が全部受け取るってことにすれば、実質的には僕が負担する代金は回復薬一本分になる。これならお互いが支払う対価は同じぐらいになると思うんだけど、どう?」


 ……まぁ、確かにそれぐらいが丁度良い妥協点か。

 ミリオの目を見れば、これ以上は引かないって感じがするし、しょうがないか。


 「分かった。そうしよう」

 「うん。納得してもらえたなら良かったよ」


 なんだかミリオとこういう話をしてると、毎度こうやってミリオが妥協点を模索して俺が同意する形になるんだけど、年齢的には役割が逆のような気がするんだよな。……情けないな俺。


 「それで、回復薬はシャーロットのところで買うんだよね?」

 「ん? あぁ、そのつもりだけど、何かあるのか?」

 「いや、それならいいんだよ。薬はあそこのものが一番効果が安定しているから、買うならそこに行ってほしいんだよ。前に一度他の店で粗悪品を掴まされたことがあってね。それ以来あそこ以外では買わないことにしているんだけど、あのお店お昼頃にならないと開かないから」

 「ほぉ」


 さすがはシャーロット先生だな。前にクレアのことで相談した時もそうだったけど、見た目は小さい女の子なのにしっかりしてるよな。

 ……お昼頃にならないと店を開けないのは、それまで寝てるのかな? まぁ、別にいいけど。

 さて、それじゃあそろそろ行くとするかな。

 一度部屋に防具を取りに戻り、家を出る前にまだそこに居たミリオに声を掛ける。


 「んじゃあ、行ってくるわ」

 「うん、よろしくね」


 その言葉に一言「おう」とだけ返し、軽く手を振り玄関扉を開き、鍛冶屋へと向かい足を進める。

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