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起床

 「……ん」


 最初に感じたのは、湿りを帯びた柔らかで温かい何かが自分の頬に触れた感覚だった。

 その次に目蓋に微かな光を感じ、そしてベッドの軋む音が聞こえ、自分の傍から離れていく温もりを感じた。

 それを逃さないように手探りでその温かなものを見つけると、手元に引き寄せ、胸元へ抱き寄せると、仰向けの体勢から寝返りを打ち、温かさと柔らかさが同居するそれを抱いていることに安心感を覚え、再び意識を深いところへ沈めていく。





 それから少しした頃、どこかから木を叩くような乾いた音が聞こえてきた。


 「アスマ、起きてる?」


 ……ミリオ?

 薄く目を開いてみると、窓からは陽光が降り注ぎその眩しさに思わず顔をしかめて目を閉じてしまう。が、そこで気づく。この明るさは、日が昇り始めてある程度の時間が過ぎた時の明るさだ。

 ということは、今は朝と昼の間ぐらいの時間ということか。昨日は早目の時間に寝たことを考えると、結構な時間を寝ていたことになる。

 あー、寝過ごした。まだ朝の日課こなしてないのに。


 「アスマ、入るよ?」


 おそらくだけど、ミリオはいつまで経っても起きてこない俺を心配して様子を見に来てくれたというところだろう。

 まぁ、昨日あんなことがあったばっかりだし、仲間としては気になるのが普通か。すまんね、今起きるよ。

 と、身を起こそうとした時に始めて自分が手足を絡めて何かに抱きついているのに気づいた。

 いや、誰かというかクレアなんだけど。

 それに気づくと同時に部屋の扉が開かれ、中へ入ってきたミリオと視線が交わる。

 そして、その視線は俺の胸元に抱き締められているクレアへと向いた。


 「クレアまで起きてこないのはおかしいとは思っていたけど、そういう訳か」


 いつもはとっくに朝食の用意をしているクレアが、今もまだここにいる理由は一つ。

 見たまま、俺が身動きを取れないように手足で拘束していたのが原因だ。


 「と、悪いクレア」


 ミリオへの挨拶はひとまず置いておいて、がっしりと抱き締めていたクレアを解放すると、その顔は上気したように赤く染まり、瞳は涙で潤んでいた。


 「うぉっ!大丈夫かクレア? ごめんな、苦しかったか?」


 少し残っていた眠気も吹き飛び、一気に上体を起こすと、クレアを仰向けに寝かせ、会話ができるように《思念会話》を繋ぐ。


 『ううん。大丈夫、だよ。その、ちょっと、いきなり抱き締められたから、恥ずかしかった、だけ』

 「そう、か? 俺に気をつかって平気な振りしてるだけとかじゃないか?」

 『大丈夫。本当に大丈夫だから。あの、私、ご飯作ってくる!』


 そう言ってベッドから素早く飛び降りたクレアは、駆け足で部屋を出ていった。

 確かにあの様子なら大丈夫ではあるんだろうが、今まで何度か一緒に寝た時も、抱き締めた時も、恥ずかしいからといってあんなに真っ赤になることはなかったんだけどな。

 それに、恥ずかしいっていうなら昨日の額同士をくっつけて会話してた時の方が恥ずかしそうなもんだけど。

 なんで急に……。謎だ。

 そのように思考すると共に辺りに視線を彷徨わせていると、再度ミリオと目が合った。


 「おはよう、アスマ」

 「おう、おはよう」


 とりあえず互いに挨拶を交わして、いつまでもベッドの上にいるのはだらしないので床へ足を下ろし立ち上がると、ミリオがこちらに笑みを向けていた。


 「ん? 何?」

 「うん。いや、特に僕から何かを言うことはないから、好きにして大丈夫だよ」

 「え? あ、おう?」


 謎の言葉を残してミリオも部屋から出ていき、中には俺だけが取り残された。

 ……いや、なんの話?

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