就寝前2
「そう、か? いや、嫌われたんじゃないのならいいんだけどさ」
もしクレアに拒絶されでもしたら、たぶん俺は当分の間立ち直ることはできないだろう。
この前のちょっとしたすれ違いで顔も合わせてくれなかった時なんかもかなり心に突き刺さるものがあったんだから、軽蔑されるようなことは絶対に避けたいものだ。
『嫌ったりなんてしないよ。だって、アスマ君のことだもん』
「何だそりゃ? それは理由になるのか?」
『うん』
……なんというか、それなりにクレアからは好かれているという自覚はあったけど、もしかすると俺が思ってる以上にこの子は俺のことが好きなんだろうか?
でも、小さい子って自分に良くしてくれる相手には割と無条件に懐くところがあるし、別にこれぐらいは普通なのか。
正直、こんな可愛い子にならどれだけ好かれても困ることはないけど、仮にも男相手にここまで無防備なのは少し心配だ。
役目を押し付けるようで悪いけど、その辺りはミリオにしっかりと言い含めてくれるように言っておこう。
自分に好意を抱いてくれてる女の子に対してそういうことを言ったりするのはちょっと心苦しいからな。
「まぁいいや。それより、いつまでも突っ立ってるのもあれだし、中に入れば?」
布団をめくり上げこちらに来るようにクレアを誘うと、嬉しそうな笑みを浮かべ、俺の枕の横に自分の枕を置き布団の中に潜り込んできた。
『えへぇ、お邪魔します』
「はいよ、ゆっくりしていってくれ」
その小さな体に布団を掛けてやると、急に布団の中の温度が上がったように感じられた。
やっぱり子供は体温が高いんだな。何かこの温かさすごい落ち着く。
このベッドは一人用のものだが、小柄なクレアが入ってきたところで窮屈になることはない。
だが、それでも一人当たりのスペースは狭くなるので、向き合うと必然的にかなりの近距離で顔を突き合わせることになってしまう。
それにしても、改めてこうして間近で見ると、クレアは本当に可愛いらしい顔をしてるよな。
艶かな藍色の髪に、つぶらで大きな瞳。ツンと上を向いた鼻に、僅かに朱を帯びた柔らかそうな頬っぺ。
身内びいきのようなものも入っているだろうが、それはまさに可愛さの極致と言っても過言ではないだろう。目に入れても痛くない愛らしさというやつだ。
『……ア、アスマ君』
「ん?」
その後もじっと正面からその顔を見つめていると、不意にクレアから声が掛かり、視線があらぬ方向に逸らされたので、どうしたんだろう?と頭に疑問符が浮かんだが、よく考えてみれば不躾にじろじろと顔を見られては良い気はしないだろう。
「と、ごめんごめん。ちょっと見過ぎだったな、嫌だったか?」
『嫌じゃ、ないけど。ちょっと恥ずかしい』
あら、可愛い反応。ういやつめ。
クレアの頭に手を伸ばし、微笑ましさからくる感情を頭を撫でることで発散し、一息ついた頃。
どこかそわそわしたようなクレアの態度に疑問を覚え「どうした?」と声を掛けると、クレアはこちらを上目遣いで見た後。
『あのね、アスマ君にお願いがあるの』
と、お願いごとをされてしまった。
珍しい、というかクレアからそんなことを言われたのは初めてだ。
お願いってなんだろう? 買ってほしいものがあるとか?
あまり高額なものじゃなければ買ってやるのもやぶさかではないが、クレアがそういうことを言うのはあまり想像できないし、じゃあいったいなんなんだろう?
「お、おう。なんだ?」
何を言われるのか不明なので、少し動揺してしまったがなんとか言葉を返す。
そして、クレアは意を決したようにこちらに視線を合わせ、思念を飛ばしてきた。
『あのね。おでこ、こっつんして?』