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食事

 家の中に入った俺たちは手早く装備を外すと、とりあえず血と汗、汚れを流すことにした。

 本当は今すぐにでも椅子に腰を下ろすなり、ベッドに倒れ込むなりしたいが、一度でも力を抜いてしまうと次に動く気力が戻ってくるまでに相当な時間を要するだろうし、何をするにも最低限体を小綺麗にしておくべきだと思ったからだ。

 家事は基本的にクレアが担当しているので、汚してしまったらその分掃除の手間を増やしてしまうからな。まぁ、流石にそうなった場合はその片付けぐらいは自分でやるけど。

 まぁ、不衛生なままにしておくのは色々と良くないしな。病気になるかもしれないし、何より臭うし。

 さてと、ぼーっとしてても仕方ないし、ちゃちゃっと綺麗にしてこようかな。





 「ふぅ、さっぱりした」


 さっきまでは帰ってくることに必死で気づかなかったけど、思っていた以上に血と汗が体にまとわりついていたようで、洗い流すと知らず知らずに感じていた不快感が消え去り、かなり心地が良かった。

 そのせいで余計に空腹と眠気が酷くなったが、それももう少しの辛抱だ。我慢しよう。

 とりあえず今やるべきことは済ませたので、食事の準備をしているクレアのもとに歩み寄り、後ろから何を作っているのか盗み見る。

 鍋の中を覗いてみると、そこには既にスープが出来上がっていたので、朝の間に用意自体は済ませていたみたいだ。疲れて帰ってくることを予見していたのだろうが、何という周到さだ。素晴らしい。

 と、後ろにいる俺の気配に気づいたのだろう、クレアがこちらに振り向く。

 俺がのろのろと体を洗っている間に自分も体を洗い終えていたのか、クレアが振り向いた時、鼻腔に石鹸のような匂いと、それに混じりどこか甘い香りを感じ取った。

 今日はもう外へ出る予定はなく、魔力を温存する必要もないので《思念会話》を発動させ、クレアとの間に魔力的な経路を繋ぐ。


 「相変わらず良い匂いだな。もう完成しそうな感じ?」

 『うん。丁度今できたところだよ』

 「そかそか。何かできることないかと思ったんだけど、遅かったみたいだな」

 『えっと、それじゃあお皿用意してもらってもいい?』

 「おう、了解」


 クレアの指示を受けて棚から人数分の皿を出してテーブルに並べていく。

 そこへ鍋を運んできたクレアがスープを注ぎ、更に別で用意していた肉を皿の中に落としていく。

 用意が完了すると腹の虫が大合唱を始め、我慢していた空腹感が一気に蘇ってきた。

 早く食べたいという欲求が刺激されたそのタイミングで丁度ミリオも戻ってきたので、卓につき三人で食事を開始する。

 空腹を満たすため、一気に食べ物を掻き込んだせいで火傷しそうになったり、喉を詰まらせそうになったが、何とかそれを回避し、食べ物を空の胃袋に詰め込んでいく。


 「そういえば、ちょっといいアスマ?」

 「ん」


 と、口一杯に食べ物を頬張っていた時、ミリオが声を掛けてきたので、そちらに手を差し向けて少し待ってもらっている間に、コップを手に取り、水と一緒に口の中のものを一気に飲み干す。


 「ふぅ。ごめん、何?」

 「うん。ブラッドウルフを解体した時に手に入れた物の分配に関してなんだけど」


 あぁ、そういえば任せっきりにしてたんだったな。こういう時やっぱり経験者が一緒だと頼りになるよな。


 「アスマ、防具がいくつか駄目になってたよね?」

 「ん、そうだな、腕の防具はちょっと裂けたぐらいだから大丈夫だと思うけど、ブーツと皮鎧は穴ぼこが開いちゃったから補修してもらうか、最悪買い換えないといけないかもな」


 少しもったいない気もするけど、そこをけちったことで命の危険に繋がるということもあるかもしれない以上は、そこはきちんとしておきたい。


 「だよね。それでなんだけど、その費用は手に入れた素材を売った代金から出そうと思うんだ」

 「え? いや、それは助かるけど、いいのか?」


 別に俺が一人で倒したわけでもないのに。


 「うん、今回は僕もアスマに助けられたからね。周囲の被害さえ考えなければ僕一人でも倒すことはできたかもしれないけど、あれだけ穏便に事を済ませられたのはアスマが前に出てくれたおかげだよ。だから、後の配分は防具の代金を引いた額の残りを折半ってことでいいかな?」

 「それは俺とミリオでってことか? クレアの分は?」

 「クレアのことは気にしなくてもいいよ。この子は今回何もしてないからね」

 「えぇ? いや、それは」


 随分と手厳しいねミリオさん。まぁ、確かに何もしてなかったと言えばそうだけど、頑張ってたのに報酬がゼロっていうのはさすがに。


 「いいよね、クレア」

 『うん』


 クレアも元から報酬を貰うつもりはなかったのか、ミリオの言葉にあっさりとした返事をするだけだった。


 「そっ、か」


 まぁ、それならそれで、今度何か個人的に贈り物でもしてあげるとしようかな。

 その後は、特にこれといった実のある話もなく、軽く雑談をしているうちに食事の時間は終わりを迎えた。

 ご飯を食べている途中からだが、食欲が満たされたことで次は我慢できないほどの睡眠欲に頭を支配されたので、時間的にはまだ早いが、今日はもう床に就くことになった。

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