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帰宅

 「つ、着いた」


 目の前に広がる見慣れた光景に、安堵のため息と共に漏れ出てしまう一言。

 正直、ここに辿り着くのを何度も諦めそうになった。それぐらいきつかった。

 徐々に激しくなってきた目眩に、頭を苛む頭痛。体温の低下に、不自然なほどの息切れ。

 あれだけ血を流したんだから血液が不足しているだろうということは分かっていた。でも、血が足りていないことによって人体が受ける影響というものがこれほど辛いものだとは思ってもみなかった。

 これぐらいならなんとかなるだろうと、楽観的な考えをしていた数時間前の自分に言ってやりたい。色々な感情を押し殺してでもミリオに背負ってもらえと。

 有り体に言って地獄だった、一人だったなら間違いなく野垂れ死んでいただろう。クレアに手を引いてもらっているから情けないところは見られないように意地を張って平然としているように見せてはいたが、内心では常に「やばい」と「辛い」と「きつい」しか思ってなかったぐらいだ。

 でも、それでも、頑張ってここまで戻ってこられた。本当に自分でも良くやったと思う。今優しい言葉とか掛けられたら泣いちゃう自信はある。


 「お疲れ様アスマ。ここまで良く頑張ったね」


 …………ぐすん。


 「わっ、どうしたのアスマ? 大丈夫?」


 こんなに絶妙なタイミングでそんな言葉を掛けてくるのはずるい。心が弱り切っている今の俺にはかなり効いた。思わず本当に泣いてしまうぐらいには。

 狙っているのか天然なのかは分からないけど、ミリオさん、お前そういうところだぞ。


 「いや、ごめん大丈夫。あれだ、何か不意に染みたというか、なんというか、うん。なんでもないから気にしないでくれ」


 不思議そうな顔でこちらを見てくるミリオにそう返すと、手の甲で目元を乱暴に拭い、鼻をすする。

 手を強く握られたのでそちらに視線を向けてみればクレアがこちらの様子を心配そうな表情で窺っていたので、崩れそうになる表情を笑顔に変え、頭を撫で回しておく。

 クレアは急に頭を撫でられたことに疑問を覚えたようだが、すぐに頬を緩めてくすぐったそうにしていたので、このまま有耶無耶にしてやる。


 「そう?まぁ、大丈夫ならいいんだけど。それじゃあ、家に帰ろうか。アスマも早く休みたいでしょ?」

 「あぁ、そうだな」


 クレアを撫でる手を止め、前を歩くミリオの背を追う。

 眠気もそうだが、空腹も酷い。とりあえず今は腹一杯に何か詰め込みたい。そして、飯を食べ終わったら丸一日ぐらい寝よう。

 それができる幸せを噛み締めながら、俺はようやく家に辿り着くことができた。

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