貧血
その後、クレアを背負って俺のもとへ駆け寄ってきたミリオに回復薬を飲ませてもらい、何とか一命を取り留めることはできた。
ただ、回復薬にも限度というのはあるようで、小瓶一本分の液体を飲み干しただけでは、傷の全てを癒し切ることはできず、クレアの分の回復薬まで飲まされてようやく傷が完治したのは予想外だった。
今日一日で俺が消費した回復薬の本数は三本。
はい、完全に赤字ですね。一本ならまだしも、二人の分まで飲み干してしまったのはさすがにやり過ぎだ。
この前回復薬を返したばっかりなのに、その時よりも一本分借金が嵩んでしまった。……なんてことだ。
魔石を売った時の金がまだ残っているからすぐに買って返すことはできるけど、それもそろそろ心許ない。近いうちに任務の一つでも受けておくべきか。
正直、今回のことで自分の思い上がりに気づくことができたのは良かった。
自分で思っていた以上に俺は弱い。半年と少しで急激に力を付けたことは事実だが、むしろそのせいもあって自分の実力を過信してしまっていたところはある。
焦って強くなる必要はないのかもしれないが、自分の大事な人たちを守るために戦うという目標を持っている以上はこのままでは駄目だ。全然足りていない。
突発的な上位種との戦闘でも、仲間を守り、最後まで立っていられる強さが必要だ。
そのためには技術的なものもそうだが、今以上にスキルを取得する必要がある。
鍛練も大事だが、そろそろ本格的に実戦を積んで様々な状況に臨める対応力と判断力を養い、そのうえでそれに応じたスキルを手に入れることが、次のステップに進むための足掛かりになってくれるはずだ。
クレアのレベル上げには同行したいから、それ以外の時に誰かと一緒に任務を受けることにしよう。
今後クレアのレベルが上昇して冒険者になった時にも、それは役に立ってくれるだろうしな。
何かがあった時に後悔することがないように、自分を高めておこう。
「アスマ、立てる?」
新たな決意を胸に刻み込んでいると、ミリオがこちらに手を差し伸べてきた。
回復薬を飲み傷が全快した後に、ブラッドウルフの毛皮や角などの素材をミリオが剥ぎ終えるまでの間、少しその場で休んでいたのだが、どうやらその作業も終わったようだ。
「あぁ、血が足りなくて頭がくらくらするけど、なんとかな」
回復薬は傷を癒し体力も回復してくれるが、血だけは元通りにはならないので、正直目眩はするし、倦怠感も酷く妙な寒気にも襲われているが、まぁ立てなくはない。これ以上の戦闘は絶対に無理だけどな。
「それじゃあ、帰ろうか。歩くのが辛いなら言ってね、肩を貸すし、最悪僕が背負って街まで連れて帰るから」
「いや、背負うのは勘弁してくれ」
さすがにそれは恥ずかしいし、申し訳ない。
意識がないのならともかく、素面の状態でそれは絵面的にもよろしくないだろう。
「ははっ、冗談だよ。森を抜ければ基本的に安全だし、疲れたら休憩にするから遠慮なく言ってね」
「あぁ、悪いな」
「いいよ」
そして、ミリオが先頭に立ち歩き始めると、俺の傍に控えていたクレアが、手を引き俺が歩きやすいように補助をしてくれていた。
「ありがとな、クレア」
俺が礼を言うと、気にしなくていいとばかりに首を左右に振るクレア。
それに助けられながら、いつも以上に時間を掛けて歩を進め、途中何度もぶっ倒れそうになりながらも、日が暮れる前に俺たちはようやく街へと帰ることができた。