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ウルフ21

 という俺の決心を嘲笑うかのように、突如として片足の膝から力が入らなくなりその場に崩れ落ちてしまう。


 「は?」


 それは回し蹴りを繰り出した側の足だ。力を込めて立ち上がろうとしても膝から下がまるで動く気配がなく反応が返ってこない。完全に肉体的な機能を失ってしまっている。


 「……まさか、もうなのか?」


 もう限界が来てしまったのか? こんなに早く?

 ……いや、でも痛みを感じないからといってあれだけ動き回ったのなら、これは当然なのか?

 だとしても、ここで限界が来るのはあんまりじゃないか? やっとこいつを倒すための算段がついたところなのに。ここからって時なのに!

 こうしている今この瞬間にも、地面から血槍が突き出してきてもおかしくない。片足じゃもうあの攻撃をかわすことは出来ない。

 なら、後俺にできることはなんだ? 残されている手はなんだ?――そんなものは決まっている。

 まだ動く方の片足で地面を踏み締め、盾を手放し自由になった両腕を地面に突き上体を支える。

 睨み付けるのは正面。そこにいる敵。今の俺の全てを投げ出さなければ届かない高みにいる生物だ。

 体が壊れるから《力の収束》は使わない? 馬鹿め。温存した結果がこれだろうが!

 これ以上油断はしない? そんな正常な思考をしている時点で、それは全力なんかじゃない。全力っていうのは己の全てを捧げて、死力を尽くすことだろうが!

 形振りなんて構うな。壊せ。自分の全てを使って、目の前にある全てを壊し尽くせ!

 大地を踏み締めた足を跳ね上げ、倒れ込むように前方へと突っ込む。

 その瞬間、それを待ち受けていたかのように血盾から反撃狙いの血槍が飛び出してくる。

 《危険察知》の予測を確かめるまでもなく、それは一直線に俺の腹を目掛けて突き出されたものだ。

 本能が避けろ、と肉体に命令を送り、それを受けた体が身を捻り回避行動を取ろうとするが、意志の力で強引にそれを捩じ伏せる。

 真っ直ぐに伸びた血槍は、一瞬《赤殻》の障壁にその動きを阻害されるが、次の瞬間にはそれを破壊し、そのまま俺の防具を、その奥の肉を貫き、傷口からは血が飛び散り、体から更に力が抜けていく。

 だが、そんなものでは俺の勢いは止められない!


 『アクティブスキル《力の収束》発動』


 未だに腕に絡みついている血の鞭は気にせず、集束率を最大限に高めた拳の一撃を、血盾へと叩き込む。


 「おぉぉらぁっ!」


 殴り付けた後のことなどまるっきり無視した無茶苦茶な――だけど、渾身の一撃を受けた血盾は、盛大な破砕音と共に砕け散り、辺り一面にその破片を撒き散らした。

 そして、それと同時に俺の拳の骨も砕け散り、皮膚を突き破った幾つかの骨がその姿を覗かせている。

 血盾を打ち砕いた先に居たブラッドウルフはその衝撃で数メートルほど後方へ吹き飛ぶが、その最中も殺意の籠った瞳は俺だけを映し、一つ鳴き声を上げた瞬間、血盾の破片全てが血の弾丸へと変化し、倒れ込みそうになっている俺に襲い掛かる。

 

 『アクティブスキル《不動》発動』


 それが直撃する瞬間《不動》を発動し、全ての弾丸の威力を無効化する。

 そして、こちらだけに意識を向けていたブラッドウルフは気づいていないようだ。

 自身を守っていた血盾を失い、無防備になった状態で警戒を怠ったお前は、俺の背後からこの状況を虎視眈々と待ち続けていたやつの存在に。

 耳に届いたのは風切り音と、それに混じって電撃の迸る音。

 それは俺の身と、弾丸を目隠しにするようにして、接触しないギリギリを狙って放たれた一矢。

 警戒を怠ってさえいなければ軽く回避できるはずの一矢。

 だが、身に刻まれた傷の痛みから生まれた殺意によって曇った瞳と意識が、俺以外に対する感知能力を鈍化させた結果。

 吸い込まれるように、それはブラッドウルフの片目に突き刺さった。

 雷属性を付与された矢は、ブラッドウルフの視界を一つ奪うと同時にその身の内側を電撃で焼き、筋肉を硬直させる。

 普通の魔物ならこれが止めとなり、死に至るはずだ。

 だが、直感で分かる。まだ、あいつは生きている。

 だから、これで終わらせる。


 『アクティブスキル《力の収束》発動』


 肉体機能の残っている片足に集約した力を以て地面を蹴り上げ、その足の役目を終えさせる。

 それは地を抉り、轟音を上げ、俺の体を高速で跳ね飛ばす。

 一瞬にしてブラッドウルフとの距離はなくなり、引き絞った腕で最後の一撃を放つ。


 『アクティブスキル《力の収束》発動』

 「終わりだ」


 終焉の言葉を告げると共に、全身全霊を込めた一撃がその頭部に触れた瞬間、肉が弾け、骨が散乱し、血が舞い上がった。

 そして、俺の体はブラッドウルフの体に接触すると、受け身を取ることも叶わず、錐揉み状態で地面を数十メートルは転がり、半分以上意識を失ったところで停止した。

 だが、手足は全て動かすことができず、意識は朦朧として、心臓の鼓動も弱々しい。今意識を失ってしまったらそのまま死んでしまいそうなほどに弱り切っている。

 と、そんな折りに頭の中に響く声が。


 『スキル取得条件を満たしました。スキル《死気招来》を取得。ならびに称号《死への反逆者》を取得したことによりスキル《死線》を取得しました』


 ……うん、遅いわ。

 こういうのって普通ピンチの時に逆転の足掛かりとして取得するもんじゃないのかよ。

 なんていうか、死力を尽くして何とかこの強敵を倒したところに水を差された気分だ。

 まぁ、でもどうにか今回も乗り切れたことに安堵する。

 正直、ここまでボロボロになったのは初めての経験だ。何度も本気で死ぬかと思った。

 それでも、生きてる。生きていられてる。

 誰一人欠けることなく難局を乗り越えられた。今はそれだけで満足しておこう。それが、何よりも大切なことなんだから。

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