ウルフ20
それはただ一筋の浅い傷跡を相手に刻んだだけの一撃だ。
だが、俺の切り札でもある《力の集束》を用いての一撃すらも防いだあの血盾を確かに貫き、その身に直接傷を付けたことは大きな進歩と言えるだろう。
もしかすると、《力の収束》を発動させて一撃を放っていれば、今の攻防で勝負はついていたのかもしれない。
しかし、今俺の体には《起死回生》の効果で尋常ではない力が宿っている。この状態で一点に力を集中させるような真似をすれば、間違いなく肉体の一部は使い物にならなくなる。だから不確定な要素を潰すために、まずは現状で俺の攻撃がどの程度通用するのかを確かめる必要があった。
そして、その甲斐あって確信を得ることができた。
全てを集約させた一撃を以て、この強敵を撃破できるという確信を。
だが、その一撃を放つために一度槍を手元へ手繰り寄せようとするが、まるで穂先が血盾と接合でもしてしまったかのようにびくともしない。
更に、そのタイミングで《危険察知》による脅威の発現を感知。
「くそっ!」
引き抜けないならしょうがないと思いながらも、みすみす武器を手放すことに対し、一つ悪態をつきその場から飛び退く。
それにより、足元から突出した血槍を回避することには成功するが、その直後、血盾の表面に波紋が浮かび、その中心から蛇がのたうつような動きで出現した血の鞭のようなものに腕が絡め取られ、凄まじい力で一気に引き寄せられる。
「うぉっ!」
地から足が放れてしまってはその力に抗うことはできず、飛び退いた距離を一瞬で引き戻されてしまう。
しかも、視線を向ければその先に待ち受けているのは血槍の鋭い切っ先。
これはまずい。《危険察知》も大音量の警鐘を鳴らしている。このままでは確実に串刺しコース一直線だ。
だが、黙ってやられるわけがない。むしろこれはチャンスだ。
『アクティブスキル《思考加速》発動』
血槍が眼前に迫った直後、《思考加速》により自身の知覚を引き伸ばし、緩やかな時の中で正面に盾を構える。
そして、盾の表面が血槍の切っ先に触れた瞬間、盾を持つ腕を外側へと傾け、滑らせるようにして血槍の側面へと盾を潜り込ませる。その部分を支点として自分の体を血槍の正面から遠ざけると同時に半回転させ、血盾から伸びている自身の槍の石突へと回し蹴りを叩き込み、それと同時に《思考加速》を解除する。
「づぁらっ!」
蹴りの衝撃を受けた槍は血盾を貫通し、ブラッドウルフの片耳を根本からその穂先で切り落とすと、そのまま後方へと流れていった。
耳を切断されたブラッドウルフは甲高い悲鳴を一つ上げると、牙を剥き出しにして、殺意に濁った瞳でこちらを睨み付けてくる。
今のは惜しかったが、やっぱり崩れた体勢から放った蹴りでは上手く正面へと力を伝えることができなかったようで、少し上へと逸れてしまったようだ。
しかし、ようやくまともに傷を負わせることができた。これを足掛かりに更に攻めていく。