ウルフ19
ここから一歩でも踏み出せばもう止まれない。
この先は俺の間合いの内側であると同時に、相手の牙、爪、槍が瞬時にこちらを捉えられる距離でもある。
先程の弾丸は《赤殻》で防げた。だが、あれはあくまでも牽制のために放たれたものだというのは感覚で理解している。
恐らくあいつの本命は、自身の周囲に散らしているあの血だ。
その証拠に、先程からあいつはあの場から一歩たりとも動いていない。誘っているんだ、俺を。自分の本領が発揮できる領域へと。
本来ならこのような誘いには乗るべきではないんだろう。実際に俺だって他の手が残されているのなら、絶対にあんな見え見えの罠に足を踏み入れたりはしない。
だが、俺にできるのは結局、この腕とその延長線にある武器を振るうことだけだ。出来損ないの魔術に頼るのは論外。そもそもこんな状態では繊細な魔力の制御などできるわけもなく、それは選択肢に入っていない。
後ろに退くという考えも持っていない。俺の活動限界はもうすぐそこまで迫っているから。
だから、無理だろうが無茶だろうが、この先へと進むしか道はないんだ。
そして、俺は死地へと続く最後の一歩を、全力で踏み出した。
その瞬間、《危険察知》がけたたましく鳴り響き、それに合わせるように真横に鋭く跳躍すると、地面から先程俺の手足を貫いた血の槍が突き出していた。
初見では回避することの叶わなかったそれを回避できたことに安堵すると同時に、変わらずに鳴り響く警戒音により気を引き締める。
地に足がついた瞬間、即座に再跳躍。
連続で足元から発現し続ける血槍をかわしていく。
ただ、避けてるだけじゃ駄目だ、前に出ろ。そうしなきゃここに飛び込んだ意味がない。
血槍の出現する速度、角度を見計らい、避ける動きを徐々に小さなものへと変えていく。最小の動きで、最適な動きで、回避。回避。回避。
そして、地に足を着けた状態で、体の捻りのみで血槍を回避した直後、相手の懐に飛び込むように前方へ跳躍する。
視線が交錯し、相手を威圧するように目に力を込めるが、その程度で怯むような敵ではない。
だから、先程のお返しとばかりに、肩の上で引き絞るようにして力を込めた槍を、貫くという意志を込めた槍を、全身全霊を以って突き放つ。
「っらぁっ!」
鋭く、風を切り裂くように、相手の頭を狙って突き出した一撃は、鈍く重い音を立て、突如として出現した血盾により受け止められるが、その切っ先は血盾の半ば程まで埋まり、相手の鼻先を掠め、皮膚を切り裂いた。