ウルフ18
『パッシブスキル《赤殻》発動』
クレアに対して、勝てるかどうかも分からない相手に勝利してみせると大言壮語を吐き、自らを鼓舞することで高揚していた心が更に昂り、自身の周囲に障壁を展開するスキル《赤殻》が発動した。
は、この土壇場に来てこいつが発動するのかよ。でも、ありがたい。これがあれば多少の反撃は無視することができるかもしれない。
スキルの効果で痛覚が無効化されているといっても、疲労や負傷が癒えたわけではない。
手足からは徐々に力が抜けていっているし、常に《闘気》を発動させていた影響で息も上がってきている。正に極限状態というやつだ。
だが、だからこそ《不屈》の効果で体の奥底から強い意志力が湧き上がってくる。《限界突破》の効果で体は自由自在に動いてくれる。
クレアが見ているんだ。なら、精一杯良いところを見せつけてやる。男なら、女の前でぐらい気張って、意地張って、格好つけないと嘘だよな!
「おぉぉっっ!!」
口腔に溜まった血を吐き捨て、裂帛の気合いと共に、全力で地面を蹴りつける。
地が爆ぜ、風を切るような速度でその場から飛び出すと、一気にブラッドウルフとの距離を詰める。
既に態勢を立て直していたブラッドウルフは、俺の急接近に反応してその場から、数発の血の弾丸を飛ばしてくる。
弾丸とはいうが、その形状は先端が尖った凶悪なもので、直撃を受ければ易々と肉を貫き、体を穴だらけにされるだろう。
だが、当たらなければどうということはない。
眼前に迫った弾丸を、斜め前方に跳躍することでかわす。
かわした弾丸はそのまま後方に逸れていくかに見えたが、まるで意志があるかのように俺の真横で急激に方向転換し、襲い掛かってくる。
咄嗟に上体を沈めることでなんとかその追撃を避けるが、その内の一発が肩口に被弾する。だが、それは俺を覆うように展開された障壁に阻まれ肉体に届くことはなかった。
《危険察知》が発動しなかったことで、薄々そうだとは思っていたが、どうやらこの攻撃では《赤殻》を貫くことはできないようだ。
なら、避ける必要はないというわけだ。
先程かわした弾丸が、再度方向転換し俺に迫ってくるが、今度はかわさずにそのまま体で受け止める。
障壁に直撃した弾丸はやはり俺に届くことはなく、その場で弾けると地面へ飛び散り染みとなった。
それが致命打となっていないことに気づいていないのか、ブラッドウルフは再度血の弾丸を放ってくるが、それも正面から盾を構えることもせずに障壁で散らしていく。
そこでようやくブラッドウルフは俺が無傷なことに気づいたのか、その姿からは微かに動揺の気配を感じた。
そして、その間にも距離を詰め続けた俺は、一足飛びに相手を捉えられる位置に辿り着いた。