レベル10
「アー君! 見てた見てた! どうだった? アン、カッコよかった? すごい? えらい?」
「あぁ、アンちゃんこんな強かったんだな。凄くて偉くて格好良かったよ」
「にへー。誉められちゃったー。ばんざーい! いあー!」
本当に強かった。
この訓練場に来るようになってから模擬戦をしている人たちを何度かは見たことがあるが、その人たちと比べても圧倒的に強かったような気がする。
いや、そういえばこの前一度だけ一人でここに来た時に見た半裸の男もかなり凄まじい動きをしてたな。
まぁ一人で型の稽古をしていたみたいだったから対人戦で強いのかどうかは分からんけど。素手だったから武闘家とかだったのかな。
「ふぅ、やられちゃったよ」
「おつかれさん。なんか色々凄いなあの子」
「うん、あれでレベル10だなんて本当に信じられないよ」
「は?」
レベル10? 嘘だろ? ミリオより15もレベルが低いのに勝ったっていうのか?
確かにミリオは弓術士だ。
近接戦闘はミリオの本分ではないんだろう。
だが15レベル差というのはそんなに簡単に覆せるものじゃないとおもうんだが。
「彼女はああ見えてもこの辺りの冒険者の間では結構有名人でね、卓越した槍の技能でレベル以上の強さを持っている彼女のことを、皆は槍の戦姫って呼んでる」
「槍の戦姫か。他のレベル10の人と比べてもやっぱり強いのか」
「うん。強い、なんてものじゃないね。少なくともあんなに強いレベル10の人を僕は知らないよ。僕が彼女とある程度戦えていたのもレベル差があるからだしね。僕と彼女のレベルが同じだったら勝負にもならないだろうね」
「弓を使っても勝てないのか?」
「今の彼女になら勝てると思うよ。彼女、実戦経験はそこまでないから正攻法以外の戦い方に弱いところがあるしね」
なるほど、一応付け入る隙がないこともないってことか。
でも、隙をつかなきゃ勝てないって、本当に何者なんだよあの子。
「そういえば槍の戦姫ってことは、槍以外の戦姫もいるのか?」
「うん。上級冒険者に剣の戦姫と斧の戦姫がいるよ。その二人もそれぞれ尋常じゃない技量の持ち主なんだけど、アンもいずれその二人に並ぶ戦姫になるだろうって言われているよ」
剣に斧の戦姫か。上級冒険者でも飛び抜けた存在に並び立てるほどの才能を持っているとか、どんだけだよアンネローゼさん。
「ねぇねぇアー君! アー君も模擬戦やろうよー! 楽しいよ!」
「いやいや、無理だっての」
マジで勘弁して下さい。
女の子に一方的にボコボコにされるとかさすがに俺のメンタルが耐えられないっすわ。
訓練前にへこまされたら今日はもう立ち上がる気力もなくなっちゃうだろうよ。
「えー。なんでー? アー君とも遊びたいよー。寂しいよー。ぶーぶー」
「そんなぶーたれられても俺じゃ相手にならないだろ」
ていうか模擬戦はアンネローゼにとっては遊びなのか。
「アン、あまり我が儘言っちゃだめだよ。それにアスマはまだレベル1だからさすがに模擬戦はまだ早いよ。今は技量を身に付けるために訓練しに来てるんだから」
「うーん。じゃあじゃあ、アー君が強くなったら一緒に遊んでもいいの? 模擬戦できる?」
「そうだね。アスマが早く強くなるためにはアンにも手伝ってもらわないとならないから、頼むよ」
「はいはーい! わかったよー! じゃあアー君、一緒にガンバろうねー」
「あぁ、頑張るよ。よろしく頼むな」
こんなに俺との模擬戦を楽しみにしてくれているんなら、少しでも早く一人前になれるようにちょっと気合い入れて頑張るとしようか。
アンネローゼとの模擬戦は俺にとってもプラスになるだろうし、むしろ願ったり叶ったりだ。