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ウルフ14

 「……ぅぐっ!?」


 手足に痺れと共に灼熱の痛みが走り、傷口から溢れ出た血が防具を伝い地面へと滴り落ち、足元を濡らしてゆく。

 口からは空気の抜けるような情けない音が漏れ、あまりの苦痛に視界は赤く染まり、その顔は醜く歪んでしまっているだろう。

 《危険察知》は発動していた。だが、地面からのあまりにも唐突で、瞬時に突き上げられた血槍に、回避行動を取る暇もなく串刺しにされてしまった。

 更には、手足を貫かれた衝撃と、痛みによる脱力感から、腕の中に抱えていたクレアの体を地面に落としてしまう。

 何をやってるんだ俺はっ!

 よりにもよって、一番やってはいけないことをしてしまった。守ると決めた子を、傷つけないと誓った子を、この程度のことで手放してしまうなんて、お前の覚悟はそんなものだったのか!

 幸いにして、地面には下草が生い茂り、それが天然の緩衝材となることで、硬い土にクレアの体が強く打ち付けられるという事態にはならなかったが、そんなものはなんの言い訳にもならない。俺が、俺自身の失態を許せない。全てをなげうってでもこの子のために尽くすという決意は嘘だったのか!

 俺の腕から投げ出されたクレアは、地面に落ちた衝撃と、その痛みで意識が呼び起こされたのか、その目蓋を薄く開く。

 そして、俺と目が合い僅かに緩んだ表情は、その惨状を目にした瞬間、驚愕に染まる。大きく目を見開き、悲しみと困惑が入り交じった表情を浮かべ、慌ててその身を起こそうとするが、半ば気絶するように眠りについたその体は、咄嗟の命令を受け付けるまでには回復していないのか、上手く起き上がることができないようだ。

 最悪だ。この子にまた心配を掛けてしまったことが、この子にこんな表情をさせてしまったことが、この子に自分の無力さを見られてしまったことが、情けなく、そして、悔しい。

 所詮俺の強さなどこの程度のものだったのだろう。何を守ることもできず、何を成すこともできず、何を得ることもできない……。

 でも、それでも、今は、まだ諦める時ではない。

 内から湧き上がってくる、この力が。自分の努力とは一切関係なく、それまでの積み重ねの一切を否定する圧倒的なこの力がある限り、まだ勝機はある。

 ……分かってはいる。いずれはこの力とも正面から向き合わなくてはいけないというのは。だが、今の俺には過ぎた力であるというのも、また事実だ。分不相応で、上手く扱うことなどできるはずもない力。

 こんな時にだけ都合良くこの力を頼っている自分に反吐が出る、だがそれでも、自分の感情を無視してでもこの場を乗り切れる手段が残されているのなら、俺は全力でその力に縋り付いてみせる。それが、どれだけ自身の存在を貶めることになろうとも。


 『パッシブスキル《限界突破》発動。パッシブスキル《起死回生Lv1》発動』


 その瞬間、手足を苛んでいた痛みは抜け落ちたように消え去り、体中に溢れんばかりの力が漲る。

 その力を以ってして、俺は手足に突き刺さっている血槍をへし折ろうと力を込めた。だが。


 「……なんで? おい、嘘だろ?」


 全力を込めて血槍の拘束から抜け出そうともがくが、血槍からは軋むような音がするだけで、それが折れることはなかった。

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