ウルフ11
スキルの効果で、足へと爆発的に力が集まっているのが分かる。
だが、これではまだ足りない。これはあくまでも足の負担を考えた結果の、最適に調整を済ませたうえでの全力だ。
格上の相手を一撃で仕留めるには力が不足している。もっと力を掻き集めなければならない。
だから、今だけ少しスキルを抑制から解き放つ。
足が壊れてしまってはもしもの時に対応できない。なので、その一歩手前。オークの上位種と戦った時の、がむしゃらにスキルを発動させた時の一歩手前まで集束率を上げていく。
まだ、まだだ、まだいける。
こんなものではまだ足りない。もっとだ、もっと掻き集めろ。あの時の抑えきれないほどの暴力的な圧力はこんなものじゃなかった。一度経験しているんだ、自分の肉体の限界は分かっている。
更に、更にと、集束率をどんどんと上昇させていく。体の内側で力の塊が蠢き、溢れ出しそうになる。
もう少しだ、もう少し……。
「……っ! ここ、だっ!」
力が限界寸前まで高まった瞬間、力の衝動を爆発させる。
圧倒的な力で地面を蹴りつけた直後、骨が軋みを上げ、足全体が引き千切れそうなほどの激痛が襲ってきた。
「ぐっぅぅああぁっ!!」
痛みに対抗するように猛り叫ぶ。
だが、限界を超えていないのは感覚で分かる。実際に筋肉が引き千切れた時の痛みはこんなものじゃなかった。
そして、周りの景色が吹き飛んだかのように感じたその時には、目の前にブラッドウルフの姿があった。
それを認識すると同時にあちらも俺の接近に気づいたのか、その瞳には驚愕の色が浮かんでいる。
さすがは上位個体、この速度を感知するとは。
でも、気づいたところでもう遅い。この距離は既に俺の間合いだ。それに。
「空中じゃ、避けられないだ、ろっ!」
高速で飛翔した勢いのまま、上半身を横に倒し、振り上げた足を上段から叩き込む。
それは、ブラッドウルフの頭部を捉え、頭蓋を打ち砕き、脳を破壊し、一撃のもとに死に至らしめるには十分な威力を秘めた蹴撃だ。……だったはずだ。
「……っ!?」
だが、俺の蹴りが直撃するかに見えたその瞬間、ブラッドウルフの瞳から血の涙が流れ、瞬く間にそれは頭部を守るための盾となり、俺の攻撃を阻んだ。
それは、薄く平たい円状の血盾だ。
一見、何の抵抗力もなさそうなそれは、しかし、確実に俺の一撃を受け止めた。
血液操作とは聞いたが、これは操作とかいう範疇を超えてるだろ。
もしかしたら、血液操作で盾を形成した後に、魔力で補強しているのかもしれないが、この一撃でも砕けないのはまずい。どうする?
いや、どうするも何もない。まだ勢いは死んでいないんだ。なら、盾を砕けないまでも、このまま地面に叩きつける!
「おぉぉぁっ!!」
クレアの体を落とさないようにしっかりと抱えこみ。空中で体を捻りながら足を振り抜き、盾ごとブラッドウルフの体を地に叩きつけた。
その衝撃で、地面を跳ね転がっていくブラッドウルフだが、数メートルほど進んだ辺りでその勢いは収まり、すぐさま体勢を立て直した。その体は擦り傷と切り傷だらけになり、確実にダメージは与えられているが、それでも体力にはまだまだ余裕がありそうだ。
対して、勢いは全てブラッドウルフにぶつけた俺は、その場で立ち上がりはするが、思っていた以上に足へのダメージが大きく、膝が笑ってしまっている。
「アスマ!」
俺の様子を見て、ミリオが急いで駆け寄ってきた。
「悪い、ミリオ。仕留められなかった」
俺の謝罪に対してミリオは、仕方ないよ、という風に首を横に振る。
だが、正面へと向けたその顔には、苦い表情を浮かべていた。
「うん。でも、これはちょっとまずいかもね……」
その視線の先には、体中の至るところから血を流し、敵意を込めてこちらを睨みつけるブラッドウルフがいた。