槍の戦姫
「それじゃあ、まずは僕とアンが模擬戦をするからアスマはよくアンの動きを見ててほしいんだけど」
ほう。冒険者同士の模擬戦が見られるのか。
これはなかなか楽しみだな。
「おう。じっくり観察させてもらうよ」
「えへー、なんだか恥ずかしいなー。でもねでもね、アンのカッコいいところアー君に見せつけちゃうよー」
「……あぁ、楽しみにしてるよ」
実際のところ、アンネローゼの実力がどんなものかは分からんけど、槍の扱いには慣れているようだし参考になることは間違いないだろう。
「やる気だね。これは僕も気合いを入れていかなきゃまずいかな」
ミリオとアンネローゼが互いに距離をとって向き合い、それぞれが短剣と斧槍を構える。
ミリオは右逆手で短剣を握り、柄頭に左手を添えて深く腰を落としている。
両手で斧槍を持ったアンネローゼは左足を前に出し、半身になった状態で軽く膝を曲げ腰を落とす。
右手は顔の辺りまで上げ、左手は胸より少し下の位置で斧槍の柄を持ち、斧槍の先端の刃部分は地面に触れそうな程低位置で静止している。
あれが長柄武器の構えか。
さすがに様になってるというか、堂に入ってるというか、なんか格好いいな。
「それじゃあミー君、いっくよー!」
間の抜けたような掛け声とともにアンネローゼが距離を詰めるために動き出す。
ミリオはアンネローゼの動きに集中しているのか、構えに入ったまま一切の動きを見せない。
そして、互いの距離が縮まり斧槍が届く距離まで迫った瞬間、アンネローゼが突きを繰り出す。
速い。
重量武器の斧槍なのに、まるで重さを感じさせないような滑らかで鋭い突きだ。
これが本物の突きか。
斧槍の先端の刃がミリオの胸の辺りに迫る。
それをミリオは体を捻りかわす。
アンネローゼは伸ばした腕を素早く引き戻すと、再度突きを放つ。
一、二、三、四、五と連続で突きを繰り出し、狙いも胸、腕、足、腹、肩とバラバラに散らしている。
ミリオは先程と同様に体を捻ったり、軽快な足さばきでこれをかわし、五度目の突きに合わせて下から短剣を振り上げ、斧槍の先端を跳ね上げる。
「あや?」
アンネローゼは跳ね上げられた斧槍の重さで、万歳をするような格好になってしまったが、その勢いを利用して後方宙返りを決める。
そして着地と同時、一足飛びに距離を詰め横薙ぎに斧槍を振るう。
「っ!」
そんなに簡単に体勢を立て直されるとは思ってなかったのか、攻めに転じようとしていたミリオは出鼻を挫かれ、横から迫る斧槍を短剣で防ぐが、勢いを殺しきれず数メートル撥ね飛ばされる。
そこに追い討ちをかけるようにアンネローゼが迫り、上段から叩きつけるように斧槍が振り下ろされる。
なんとか体勢を立て直すのが間に合ったミリオは頭上に短剣を掲げ、斧槍の軌道を逸らす。
そのまま斧槍は地面に叩きつけられるかと思ったが、アンネローゼはその寸前で勢いを殺しきると、斧槍を九十度回転させ先端の鉤爪をミリオのブーツに引っ掛け、引き倒す。
「しまっ!」
そして、倒されたミリオの首元に斧槍の先端が突きつけられる。
「……まいったよ」
「にひー。アンの勝っちー! やったね! ぶい!」
「あはは、やっぱり強いねアンは」
すげぇなアンネローゼ、あのミリオに勝つなんて。
正直こんなに強いなんて完全に予想外だった。
「さすがは槍の戦姫だ」
槍のセンキ?
戦鬼? いや、戦姫か?
なんにしても二つ名まで持ってるということはアンネローゼってもしかしてとんでもなく凄いやつなんじゃ……?




