ウルフ5
周囲を駆け回るウルフたちの動きは速い。
これが魔物の蔓延るこの森で、素早さを武器に生き抜いてきたものの強さだと主張するように、その柔軟な身のこなしで俺を翻弄しようとしてくる。
遠くからこちらへ駆けてくる姿から相当な速度だということは分かっていたが、至近距離で見ると更に速く感じられる。
やはり獣の姿をしているだけあり、足運びが人のそれとはまるで別物だ。正直、以前ならその動きを目で追うことはできず、《危険察知》を頼りにして、回避するだけでも困難だっただろうが、今の俺にはこれがある。
『アクティブスキル《感覚強化》発動』
以前、感覚強化の習熟中に、視覚強化には動体視力を強化するという効果もあることに気づいた。
それまでにもミリオたちとの模擬戦で、その動きに目が追いつかず翻弄されることが何度もあったので、格上対策の一つとして用意しておいたのだが、こんなに早く役に立つ時が来るとは思わなかった。
動体視力を強化したことにより、ウルフの動きが子細に知覚できるようになった。
これなら《危険察知》と兼ね合わせることでかなりの効果が期待できるはずだ。
そして、視界の端でウルフが地を蹴る様を捉えた瞬間、《危険察知》が発動する。それに瞬時に反応し、足への噛み付きを一歩後ろに下がることで回避する。
が、その直後に再度《危険察知》が発動する。振り向いている暇はないので、即座に真横へ跳躍しながら視線をそちらへ飛ばすと、背後からもう一体のウルフが直前まで俺がいた場所へ、大口を開き飛び掛かっているところだった。
空中では回避することもできないだろうと思い、反撃を繰り出そうと足に力を込めた瞬間、またしても《危険察知》が警鐘を鳴らす。
見れば、俺が蹴りを放とうとした足の逆側から、もう一体が額の角を前方に突き出し、迫ってきていた。
……こいつら、連携して俺の動きを封じにきてるのか。
さっきから、一体の攻撃をかわすごとにもう一体が死角に回り込んで攻撃をしてくるから反撃を行うどころじゃない。
攻撃をかわすだけなら今のところなんとかなってるけど、この連携は厄介だ。
二体を同時に相手するだけでも面倒臭いのに、こう無駄に高度な連携をとられては手が出せないどころか、こちらが先に隙を突かれて一撃をもらってしまいそうだ。
ひとまずウルフの突撃を後ろへ下がることでかわすが、やはりその直後にもう一体が追撃を仕掛けてくる。
このままじゃ完全に相手の思う壺だ、何とかしてこの流れを断ち切らないといけないが、どうするか……。