ウルフ4
牙を剥き出しにして、唸り声を上げながらこちらを睨み付けるウルフたち。
仲間を一体やられたことにより俺に対する警戒を強めたのか、先程までとは違い無闇に飛び掛かるような真似はせず、二体で俺を挟み込むようにしてその周囲をゆっくりと回り、じりじりとこちらへにじり寄ってくる。
今すぐに攻撃を仕掛けてくる気配はないので、その間に自身の足へ回復魔術を施しておく。
やっぱり、《力の収束》は体の一点に力を集中させるという性質上、能力を使用した部位への負担が想像以上に大きい。
普段であれば《自己再生》の効果で少しずつ回復していくので回復魔術を使用するまでもないのだが、先程のゴブリンとの戦闘で一度使用し、それから多少時間が経ったとはいえ、短時間でもう一度使用してしまっているので、念のため治癒力を高めておく。
二度ぐらいならまだ大丈夫だとは思うが、何が起きるか分からない状況で足を負傷してしまうのだけは避けたいので、早め早めに対策をしておく。
正直、《忍耐》のスキルを取得して、今までよりも苦痛に対しての許容限界の上限が増してしまったため、まだ大丈夫と思っていても、いつの間にか肉体に想像以上のダメージが蓄積されていて、急に動けなくなったりしそうで怖いからな。
さて、残りの二体はどうやって対処するか。
これだけ警戒されていては《力の収束》による直線的な突撃では仕留めるのは難しいかもしれない。
だが、良く良く考えてみれば、別に俺がこいつらを倒す必要はないんじゃないか?
要はミリオがこちらに戻ってくるまでの間やられないように時間を稼ぐことができれば、後の始末はミリオがやってくれるだろう。
何て他力本願な作戦なんだ、とも思うが、この手段が一番リスクが低く済みそうだ。というか、そもそもミリオからは正面から来る相手を抑えておいてくれと頼まれたのだから、ある意味では目的は達成しているのか。
先程のように絶好の機会が訪れれば、攻勢に出るべきかもしれないが、今のように膠着状態に陥ったのなら、無理に手は出さないでおこう。
だが、そうして俺が後ろ向きな決意をした直後、現状に痺れを切らしたのか、ウルフたちが急に駆け足で周囲を回り始めた。
動きで撹乱して一気に勝負を決めに来るつもりか?
あわよくばこのままのらりくらりと時間を潰すつもりだったが、どうやらそうもいかないらしい。
結局は自力でどうにかしないといけないというわけか。
つくづく魔物というのは血気盛んで融通の利かない生物だ。