ウルフ3
三体のウルフの内先頭にいる個体が吼えると、その一音で後ろから続く二体と意思疎通を図ったのか、僅かに互いの間隔を開き、同時にこちらへと駆け出してきた。
「……いや、さすがに三体はまずいだろって」
正直、一体でもギリギリ凌げるかどうかと思ってたところに三体同時に迫ってくるとか、どんだけ鬼畜なんだよ。どうするんだよ、これ。
俺の心の嘆きなどお構い無しに、ウルフたちはその敏捷性を以て、あっという間に彼我の距離を詰めてきた。
とにかく、このまま無防備でいるわけにもいかないので相手との距離がゼロになる前にスキル、魔術により自身の能力を向上させていく。
その間にも疾走を続けていたウルフたちは、もうすぐそこまで迫っている。
さあ、どうするか……。
このまま三対一で戦えば相手の動きに翻弄された挙げ句、確実に対応できなくなってやられてしまうだろう。
それだけは絶対に避けなければならない。俺がやられてしまえば、次にこいつらの牙はクレアへと向かってしまう。そうならないためには、まず相手の数を減らすことが先決だ。
たぶん、一体だけならすぐに仕留めることは可能だろう。でも、その後どう動くか、それがまだ定まっていない……。
そうこう考えている間に、ウルフがもう少しで絶好の位置に到達するというところまでやってきた。
本当なら《思考加速》を使って考えをまとめる時間を捻出したいところだけど、次に取る行動が決まっていない場面であれを使ってしまえば、短時間の発動でも少なからず発生する痛みにより思考が鈍ってしまうので、使用は控えた方がいいだろう。
今の俺にできることは限られている。なら、今はこのチャンスを潰さないためにも、数少ない手札から一枚カードを切るべきだ。
直後に体勢が崩れてしまうのが心配だが、早く行動に移らないともう時間がない。
行き当たりばったりの出たとこ勝負になるが、しょうがない。何の代価も支払わずに、最良の結果だけを得ようなんて甘い考えは捨てよう。多少のリスクがあろうとも、堅実にまずは一体仕留めることに集中しろ。
目の前、一番前にいるウルフを真正面に見据えて、大地を踏み締める。衝撃でクレアを手放さないように抱え込むように抱き締める。
そして、先頭のウルフが目標地点に到達する寸前、脚部に力を一点集中させる。
『アクティブスキル《力の収束》発動』
爆発的に高まった脚力でありったけを込めて、地面を蹴りつける。
小爆発でも起きたような音を足元で轟かせ、低空で一直線にウルフに急接近し、その顔面へと最大火力の蹴りを叩き込む。
靴底がウルフの鼻先を捉え、骨を砕き、肉を陥没させ、首の中に頭部がめり込み、血と肉片を撒き散らしながら、反発力で一気に茂みの向こう側へとその姿は吹き飛んでいった。
直後に、足を大地に突き出しブレーキを掛ける。地面を削り、土煙を上げながらも数メートルほど地を滑り、何とか転ぶことなく姿勢を制御することに成功する。
「まず、一体!」
自分に言い聞かせるようにそう言い、視線を前に戻す。
残るウルフは、あと二体。