ウルフ2
俺からの了承を受けたミリオは、すぐさま行動に移るための準備を始めたのか、背後からそれに伴う物音が聞こえてきたが、それはすぐに治まり、地面を踏み締める音が聞こえた。
「準備はいい? アスマ」
この状態では準備も何も特にできることはないが、心構えだけは既に完了している。となれば、後はもう状況に合わせて最善と思われる行動を重ねていくしか俺にできることはない。
情報が不足している中で、それがどれだけ困難なことなのかは分かっているつもりだけど、ここまでくればもう退くという選択肢がないことも分かっている。
だから、俺はクレアを守ることと、正面にいる敵を抑えるという役割を確実にこなすことだけを考えよう。
「あぁ、いつでも」
「それじゃあ、行くよ!」
その掛け声と同時に、背後の足元から地面を蹴りつける音が聞こえ、ミリオの足音が段々と遠ざかっていく。
そして、ミリオがある程度の距離俺のもとから離れた直後、その隙を狙い済ましていたウルフが左右の木の陰から這い出るように、飛び出してきた。
だが、俺は動かない。
視界の端で、左右から高速でこちらに迫ってくるウルフの姿を捉えてはいるが、あくまで意識は正面に向けたままだ。
ミリオは俺に、正面から来る敵だけを任せると言った。あいつがそう言ったのなら、俺はそれを信じて前方だけを警戒すればいい。
二体のウルフは既に俺へ飛び掛かれる距離まで詰め寄ってきている。が、この程度の状況では慌てるまでもない。何故なら、ミリオからの指示がないからだ。本気で危険な状況なら向こうから警告してくるはずだ。それがないということは、この状況も計算の内だということだ。
事実、牙を剥き出しにして俺の体を食い破ろうとした二体のウルフは、同時に俺へと飛びかかってきた瞬間に、目の横、人で言えばこめかみの部分に深々と矢が突き刺さり、その衝撃で真横に吹き飛び、甲高い鳴き声を上げ地面に横倒しになると、そのまま活動を停止させた。
背後からミリオが放った矢により、脳が貫かれたのだろう。時折跳ねるように動くことはあるが、もう既にその生命は失われているだろう。
背後からは獣の唸り声と、甲高い鳴き声が断続的に聞こえてきている。つまりは未だに戦闘は続行しているということだ。
さすがはミリオと言ったところか。自分は数体のウルフを相手にしながらも、俺へのフォローまでこなすとは。つくづくその実力を思い知らされる。俺とは雲泥の差だ。本当に頼りになるやつだよ。
そして、その後も警戒を続けていると、遂に正面からもウルフが姿を見せた。その数は三体。
……おい。いきなりそんな数でくるのかよ。