照れ
思念会話を解除し、ミリオの姿を探すために辺りに視線を巡らせてみると、少し離れた場所でいつの間にか魔術で開けた大穴に、ゴブリンの死体を埋める作業をしているところだった。
万が一にもクレアの体を落っことすことがないように抱え直すと、ミリオがいる場所へと歩を進める。
その足音に気づいたのか、ミリオはこちらに振り返り俺の腕に抱きかかえられたクレアの姿を発見すると笑顔を浮かべ、挨拶をするような感じでこちらに手を上げてきた。
前から思ってたんだけど、あの手を上げてくる動作はサムズアップ的な意味合いを持っているんだろうか?何となく意味は通じてるからそれについて特にツッコんだことはないけど、たぶんそうだよな?
こっちも手を上げ返したいところだけど、両手が塞がっているので残念ながらそれは果たせない。
「お疲れ、アスマ。その様子だと上手くいったみたいだね」
「あぁ、まぁな。と、悪いな死体の処理任せっきりにして」
軽く穴の中が目に入ったが、そこには先程倒した六体のゴブリンの死体が、折り重なるようにして積まれていた。
「いいよ、むしろこっちこそ難題を押し付けちゃってごめんね。大変だったでしょ?」
ミリオはクレアへの対応を俺に任せたのを悪いと思っているのか、申し訳なさそうにこちらの反応を窺っているが、結果的に上手く事が運んだんだからそれ程気にすることはないと思うんだけどな。
「いや、そんなに大変ってことはなかったぞ、クレアもこっちの気持ちに応えようと頑張ってくれたし。まぁ、こんな状況を任されたのは初めてだったから戸惑いはあったけど」
正直、対処法なんて分からなかったから、頭突きをかまして痛みで意識を覚醒させたり、気持ちを落ち着かせるためとはいえ、あんなに顔を近づけて優しく囁き掛けるなんてこと、非常事態でもなければまずやることはないだろう。
というか、さっきまでの自分の行動を思い出したら、今更ちょっと恥ずかしくなってきた。別に恥ずかしがるような行いをしたわけじゃないけど、普段の自分の行動とのギャップが恥ずかしいというか……。
いや、俺は必要なことをしたんだ。だから恥ずかしがることなんて何もないんだ。うん。そうだよ、家の裏口で湯浴みをしているようなやつがこの程度で恥ずかしがってるんじゃないって話だよな。
「そっか。やっぱりすごいね、アスマは」
あまり自分を卑下し過ぎるのは自信の喪失にも繋がるので、その言葉は素直に受け取っておくが、俺からすればミリオの方が断然すごいと思うんだけど。
戦闘面では言うに及ばず、精神面でも圧倒的に俺よりも上だ。実は密かに尊敬しているから褒められること自体は嬉しいけど、少しむず痒い。
「あー、そうかな? うん、ありがとう。そんじゃ、早くクレアをベッドで寝かしつけたいし、そろそろ帰ろうぜ」
照れを隠すように視線を逸らしながら礼を言い、帰宅することを提案する。
「ははっ、そうだね。じゃあ帰ろうか」
そうして俺たちは帰路に着くことにした。