自失2
「分かった、やってみる!」
「うん、お願い。僕は辺りを警戒しているから、クレアのこと、頼んだよ」
「あぁ」
ミリオと入れ代わるようにクレアの正面に立ち、ミリオがそうしていたように、その華奢な肩に手を掛けクレアに呼び掛ける。
「クレア。クレア!」
だが、相変わらず薄く反応は返ってはくるが、大した反応が返ってくることはない。
呼び掛けたところでこの程度の反応しか返ってこないのであれば、このまま声を掛け続けてもクレアが意識をこちらに向けてくれる可能性は高くはなさそうだ。
でも、なんとか早く別の方法を見つけないと、この状態を長く続けさせるのはまずいだろう。
内に閉じこもっている意識をどうにか外へ向けさせないと俺の声がクレアに届かないっていうんなら、まずはそこをどうにかするべきだ。
意識を外へ向けるには、やっぱり外的刺激を与えるのが一番か……。
そう思い、クレアの肩を放さないように少し強めに握り、数度体を前後に揺する。
だが、これでは刺激が足りないのかクレアの様子に変化は見られない。
……仕方ない、か。
クレアの肩から手を放すと、自分の兜を脱ぎ捨て、クレアの帽子も脱がせる。
そして、再度肩に手を掛け、ゆっくりと自分の顔をクレアの顔へと近づけていく。
やがて、クレアの息遣いを頬で感じられ、その瞳の中に俺の姿が映っていることを確認できるほどの距離まで顔を近づける。
「ごめんな」
聞こえてはいないだろうが、それでも今から俺がクレアに行うことに対して、先に謝罪しておきたかった。
こういった行為には慣れていないので、もしかしたら必要以上に刺激を与えてしまうかもしれない。でも、これ以上の考えが浮かばない以上、やるしかない。
覚悟を決めると、数度の深呼吸を繰り返した後、クレアの瞳を見つめ、肩を掴む手に力を込め、そして――俺はクレアの額に自分の額を激しく打ち付けた。
骨と骨がぶつかり合う鈍い音が響き、その衝撃でクレアの頭が後方に勢い良く弾かれるが、倒れないように肩を抱きかかえ、その体を支える。
クレアの額は今の一撃で真っ赤になり、その顔は先程までとは違い痛みを堪えるようにしかめられている。
守るべき対象であるクレアへこのような真似をするのは心が痛んだが、その甲斐もあってか意識の反応を引きずり出すことに成功した。
なので、そこへ畳み掛けるように思念会話を繋ぎ、クレアの頭へ直接俺の声を届ける。
『クレア。聞こえるか、クレア!』
俺のありったけの思念を叩きつけるかのようにクレアへと送り込むが、それでも尚沈黙が続き、これでも駄目かとそう思い始めた時。
『……ア、スマ、くん?』
と、弱々しいながらもクレアから返事が返ってきた。
良かった。まずは意識を取り戻すことができた。だが、まだ安心はできない。ここからクレアの心が安定するまで落ち着かせないといけない。
そんな繊細なことが俺にできるのかは分からない。でも、クレアのことを頼むとミリオに言われたし、何より俺が、この子を助けたいと思ったんだ。なら、できるのかできないかは問題じゃない、やるんだ。それが困難なことだろうと、やるんだ。