緒戦
「アスマ、そっちの三体お願い!」
「おう!」
森に足を踏み入れて十数分後、早速俺たちは少数のゴブリンの一団を発見していた。
ここから目視で確認できるゴブリンの数は六体。
木の根元に座り込み今にも眠りに落ちそうに、うつらうつらと船を漕いでいるのが一体。下卑た笑い声を上げ、談笑しているのが三体。少し離れたところで狩った動物を石器のようなもので弄んでいるのが二体だ。
この内一体をクレアに割り当てるとして、残り五体の内、比較的近くにいる三体を俺が、離れたところにいる二体をミリオが担当する手筈だ。
木々で隠れて見えない場所にも敵がいる可能性も考慮して、目標を瞬時に殲滅するためスキルを発動させ身体能力を向上。背中から先日鍛冶屋で受け取ってきた槍を引き抜き、呼吸を整え、意識を脚部へと集中させる。そして、神経を研ぎ澄まし、標的までの距離を見据えると、足先に収束した力を一気に解き放つ。
『アクティブスキル《力の収束》発動』
その瞬間、地面を踏み抜かんばかりに足元で力を爆発させ、落ち葉を巻き上げながら、周囲の景色を置き去りにするような高速移動で一足飛びにゴブリンの背後へと肉薄し、肩口で引き絞った槍を捻るように突き出し、二体のゴブリンの胸をまとめて貫通し、絶命させる。
そして、ゴブリンを串刺しにした槍から手を放すと、勢いをそのままに地面から体を跳ね上げ、木の幹を蹴りつけることで方向転換し、最後の一体へ腰から引き抜いた小剣を、その脳天へと叩き込んだ。
力任せに振り抜いた一撃で頭部から胸元にかけて両断されたゴブリンは、断面から血を噴きそのまま地面に崩れ落ちた。
三体のゴブリンを片付け周囲に視線を巡らせると、今の戦闘音で眠りに落ちそうだったゴブリンは何事かというように跳ね起き、離れた場所にいた二体のゴブリンもこちらへと注意を向けてきたが、視線をこちらに向けた瞬間、後方から二体のゴブリン目掛けて飛翔してきた二本の矢が、吸い込まれるように二体の眼窩を貫き、その衝撃で頭から背後へと倒れ込んだ。
周囲には他のゴブリンの姿はなく、残るゴブリンは寝落ちしかけていた一体だけとなった。
状況を飲み込めていないゴブリンは、少し混乱するように呻いた後、俺の姿を見定め、奇声を上げながらこちらへと駆け出してきた。
それを見届けた俺は身を翻すと、軽い足取りでゴブリンから逃げるように駆け、後ろからこちらへと向かってきていたクレアと入れ違う。
「気をつけてな」
擦れ違う瞬間にクレアにそう声を掛けると、一つ頷きを返して、ゴブリンへと向かって駆けていった。
双剣を引き抜いたクレアは、正面からゴブリンと向かい合い距離を詰めると、無茶苦茶に腕を振り回してくるゴブリンの攻撃を大きな動きでかわし、反撃の機会を窺っている。
万が一に備えて俺は腰のナイフへと手を掛け、いつでも投擲できるように準備しておく。
だが、その後何度か攻撃を空振りしたゴブリンが自分から体勢を崩したところに、背後から魔刃を発生させた短剣を突き込み、それを左右に切り開くことで一気に出血させ、それが致命傷になりゴブリンは絶命した。
久しぶりの実戦で緊張していたからか、クレアは肩を上下させて息をし、握っている短剣も剣先が小刻みに揺れていた。
まだまだ動きには無駄が多くて危なっかしい限りではあったけど、魔刃の斬れ味はやっぱり凄まじく、それほど大した威力が込もっていなかった突き込みでいともたやすくゴブリンを突き刺し、斬り裂くことができていた。
経験不足のせいでそれを万全に生かしきれていないのはもったいないが、経験が浅いうちは誰だってそんなに上手く立ち回ることなんてできないものだ。今はそれでも緊張と恐怖を堪えて戦闘に勝利したクレアの頑張りを労うとしよう。